テーブルにメニューが置かれていた。ちゃんと日本語も併記されている。これは助かる……と思ったが、メニュー自体がなかなか難しかった。食べ放題はあるのだが、それは小さな扱いで、定食やサイドメニューがスペースをとっている。食べ放題が推しメニューというわけではなさそうなのだ。

 これはじっくり読まないと注文できないかもしれない……と思っていると、同行してくれた韓国人の知人が口を開いた。

「そういうことか」

「ん?」

「よく見てください。食べ放題はオスのカンジャンケジャンでした。メスは食べ放題じゃないんですよ」

 落胆した表情だった。

「やっぱりメスなんですか」

「そりゃ、そうですよ。オスは卵がない。ソウルっ子は高くてもメスを食べます。卵がないと、コクがないんです」

「コクですか?」

 カンジャンケジャンはオスとメスでそんなに違うとは知らなかった。40年前に大久保で食べたカンジャンケジャンを思い起こす。卵はなかったような気がする。もし人気のメスを出していたなら、店の主人は胸を張って強調していたはずだ。ということは、僕はオスを食べたことになる。それで満足していた。オスの食べ放題でいいではないか、と思ったが、知人は譲らなかった。

「やっぱりメスじゃないと……」

 そういいながらメニューに視線を落とすのだった。(つづく)

訪れた店の店内は明るく、簡素。予想していたカンジャンケジャン専門店のイメージとは違った