韓国時代劇恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の主人公は、ナムグン・ミンが演じる通訳官イ・ジャンヒョンと、アン・ウンジンが扮する令嬢ユ・ギルチェ。2人が繰り広げる「戦乱の中で貫かれた究極の愛」がドラマの骨子だ。同時に、ドラマの前半でヤマ場となったのが、清国の攻撃を受けて南漢山城(ナマンサンソン)に逃げた16代王・仁祖(インジョ/演じたのはキム・ジョンテ)の動向である。(以下、一部ネタバレを含みます)

■人気時代劇『恋人』の舞台背景、歴史的な「丙子胡乱」によって主人公2人の人生が劇的に変わってしまった

 清国が10万人を超える大軍で攻めてきたのは1636年12月だった。彼らの軍勢は強力で、都の漢陽(ハニャン)は陥落寸前となった。

 仕方なく、仁祖は南漢山城に逃げ込んだ。ここは、漢陽から東南側に25キロのところに位置しており、それまでに歴代王朝によって山城が維持されていた。その南漢山城に入った仁祖は、1万3千人の兵と共に籠城した。

 その一方で、国王がいなくなった漢陽では、清国の大軍が容赦なく略奪を繰り返していた。甚大な被害を受けたのは庶民たちだった。

 悲惨な状況が逐次報告されて、南漢山城では降伏派と主戦派が激しい論争を繰り返していた。降伏派の急先鋒が、吏曹(イジョ/官僚の人事を担う役所)の副長官を務めていた崔鳴吉(チェ・ミョンギル)であった。

「すぐに降伏して王朝を守らなければなりません」

 崔鳴吉はこのように主張して王朝の生き残り策を仁祖に上奏した。

 異議を唱えたのが、礼曹(イェジョ/儀礼と外交を担当する役所)の長官だった金尚憲(キム・サンホン)であった。

「降伏するなどとは、もっての他です。絶対にいけません」

 金尚憲は、降伏に反対して徹底的に抗戦することを主張した。

 長い論争が続いた。時間が経てば経つほど庶民の辛苦が増していった。それなのに、仁祖はなかなか決められずにいた。彼は決断力が弱い国王であった。その間にも、朝鮮王朝はどんどん窮地に追い込まれていった。

 真冬の時期で、南漢山城で籠城する者たちは寒さに苦しめられた。同時に、食糧も尽きてきた。勝ち目がまったくないと自覚した仁祖はようやく観念して、籠城をやめることにした。あまりに遅い決断であった。

 1637年1月、仁祖は漢江(ハンガン)のほとりまで出向いていって、清国の皇帝の前で謝罪を繰り返した。何度も額を地面にこすりつけなければならなかったのだ。それは、朝鮮王朝が始まって以来の最大の屈辱であった。歴史的にこの悲劇は「丙子胡乱(ピョンジャホラン)」と呼ばれている。