■ディストピアを描く続けるヨン・サンホ監督の新作『失楽園(原題)』 「人間的なこととは何か」という問いかけ
しかし、今回のBIFFの真骨頂は、ユニークな演出としてAIを導入する一方で、作品を通じてその影の側面や人間性の本質を問い直す批評性を同時進行で提示したことである。その象徴となったのが、ディストピアを描き続けるヨン・サンホ監督の新作『失楽園/PARADAISE LOST(原題)』(10月21日、韓国公開)だ。
本作は、行方不明になった息子(ペ・ヒョンソン)を、AIプログラムで再現して向き合う母親(キム・ヒョンジュ)の心理を描いたスリラーである。
ヨン・サンホ監督は記者会見や舞台挨拶の場で、「AIが日常に溶け込み、人間の思考や創作を代替できる時代において、私たちが守るべき『人間的なこと』や『人間のアイデンティティー』『使命』とは一体何なのか」という重いテーマを投げかけた。
BIFFではAIを映画製作に活用する方法論が具体的に討論される一方で、映画自体が描くべきなのは人間特有の不完全さや倫理的な葛藤ではないか、というヨン・サンホ監督の問いかけは、今年のBIFFが強く意識した「AIとの共存」というテーマに深い立体感を与えた。
■「釜山国際映画祭らしさ」の体現、オープニング作品とコンペ部門の実験性
大作主義や商業主義への批判が飛び交う中でも、今年のラインナップは釜山国際映画祭が本来持っている「実験精神」や「アジア的視点」を失っていないことを力強く証明していた。その最たる例が、オープニングを飾った『The Table Day and Night』と、コンペティション部門に出品された『剃刀/Shaving(原題)』である。
両作とも商業的なエンターテインメントの枠組みを大胆に超越した、実験性の高い野心作だった。また、ビジョンアジア部門に出品されたタイ映画『Bua』は、都会の暴力性と地方の貧困を女性の身体を通して告発しつつも、人間の崇高さを描いた爽やかなラストが救いをもたらした。
特筆すべきは、日本映画『Satoko Always さとこはいつでも』に出演した16歳の新星・姫野花春が、コンペティション部門の「最優秀俳優賞(Best Actor)」を受賞したことだ。審査員から「まさに輝く原石」と称された姫野の瑞々しい演技と、日本映画ならではの誠実な美しさは、現地メディアや映画関係者の間で大きな話題となった。
これらの作品はまさに釜山国際映画祭らしさの表れであり、大作主義という批判に対する映画祭側からの明確な回答を示したようだ。マジディ監督の大賞受賞が「人道的価値」への共感であるならば、『Bua』や『Satoko Always』などの作品の健闘は「芸術的多様性」「アジア的視点」の担保であり、商業主義批判の中でも映画祭の根幹が守られていることを物語っている。
■国際映画祭が目指すべき1つのグランドデザインを提示
BIFF会場の周辺には、Netflixで配信される韓国の巨匠イ・チャンドン監督作『もしもの愛(Possible Love)』(11月6日配信開始)の超巨大広告が現れ、威容を誇っていた。
巨大化したNetflixなどグローバルOTTとの協業の在り方については依然として議論が残るものの、AIとの共存や人間性の追求、アジアの多様な視点を改めて打ち出した今年のBIFFの試みは、これからの国際映画祭が目指すべき1つの方向性を提示したと言えるのではないだろうか。