韓国時代劇の名作『トンイ』で主役トンイを演じたハン・ヒョジュの愛嬌あふれる表情とひたむきな態度は、視聴者の心に強く残った。大ヒットしたのは、ハン・ヒョジュの透明な存在感が際立っていたことも大きかったのだ。

 ハン・ヒョジュが演じたトンイは、史実で19代王・粛宗(スクチョン)の側室だった淑嬪・崔氏(スクピン・チェシ)がモデルになっていた。そして、淑嬪・崔氏とすさまじい敵対関係を持った人物こそが張禧嬪(チャン・ヒビン)である。

■大ヒット時代劇『トンイ』の物語の背景、粛宗が党派同士の争いを煽って自らの王権を盤石にするために策を弄していた

 多くの韓国時代劇で張禧嬪は、粛宗の寵愛を受けながら正室の仁顕(イニョン)王后を窮地に追い込む妖女として描かれている。『トンイ』ではイ・ソヨンが演じたが、張禧嬪は狡猾さと冷酷な振る舞いをする女性として登場する。

 しかし、ドラマから史実に話を変えていくと、張禧嬪と淑嬪・崔氏の確執は、単なる「側室同士の熾烈な争い」という構図では収まりきれなくなる。その背後には、高官たちによる凄絶な権力闘争が潜んでいたのだ。

 1690年代の宮廷では、「党争」と称される過酷な権力闘争が勃発していた。張禧嬪の後ろ盾として南人(ナミン)派が力を伸ばしており、それに対抗する仁顕王后や淑嬪・崔氏の側には西人(ソイン)派が控えていた。

 このように、国王の寵愛を争う女性同士の対立は、国の実権をどちらの勢力が掌握するかを賭けた「代理戦争」にほかならなかった。

 そうした闘争を冷徹に見ていた張本人こそが、実はしたたかな粛宗だった。彼はドラマの中で優柔不断な国王として描かれることが多いが、実際の歴史に残る素顔は、極めて非情で打算的であった。

 粛宗は重臣たちの派閥抗争を巧みに利用した。張禧嬪を寵愛して南人派を重用したかと思えば、打って変わって仁顕王后の地位を回復させて南人派を追放する、といった有様である。実際、粛宗は自ら采配を振るって党派同士の争いを煽り、自らの王権を盤石にするために策を弄していた。