●規格外の女癖に呆れた後妻・兼子が放った痛烈なひと言
これだけ派手に遊んでいれば、いくら明治の偉人とはいえ家庭内はさぞ荒んでいただろう……と思いがちだが、近親者の証言によれば、庶子も含め仲睦まじい家族だったようだ。
徳川慶喜や明治新政府の元勲たち、果てはアメリカ大統領まで(もちろん数々の女性もw)惹き付けた人間的魅力のなせるわざと言うべきだろう。
ただし、妻としてはひと言申し上げたいこともあったようで、後々に後妻の兼子が子どもたちに溢した痛烈な皮肉がよく知られている。
「大人(たいじん)※も論語とはうまいものを見つけなさったよ。
あれが聖書だったらてんで守れっこないものね」
※「大人」とは渋沢のこと。旦那様というニュアンス
まったくそのとおりw 姦淫を戒めるキリスト教だったら一発アウトだ。とはいえ、渋沢当人も女性にからっきし弱い自分の性格が子どもたちに遺伝してはまずいと思っていたらしい。自らまとめた渋沢家家憲(家訓)の中で、こう記している。
「凡そ子弟には卑猥なる文書を読ましめ、卑猥なる事物に接せしむべからず、
又芸子芸人の類を近接せしむべからず」(渋沢家家憲第三則・八条)
(子どもたちにはいやらしい本を読ませない。いやらしい物や場所に近づけないこと。
それに、芸妓や芸人などに近づけるのもダメ、ぜったい!/意訳)
これもご説ごもっともではあるが、これまでの性豪ぶりを知ってしまうと、苦笑いしか出てこない。もっとも、こういう完全無欠の聖人君子でないところが、むしろ渋沢栄一の魅力だったと語る人も少なくない。こうして苦笑いやツッコミが入るのも承知の上なのかもしれない。
ちなみにこの家憲、毎年正月には一族揃ったところで読み上げるのが恒例だったそうで、兼子令夫人はどんな顔でこれを聞いていたことやら……。
参考資料
デジタル版『渋沢栄一伝記資料』(渋沢栄一記念財団)
『渋沢栄一自伝 雨夜譚・青淵回顧録(抄)』(渋沢栄一/角川ソフィア文庫)
『弊風一斑蓄妾の実例 明治大正ものセレクション (Kindle版)』(黒岩涙香、伊藤秀雄/現代教養文庫ライブラリー)