■生きたまま神話になった巨大人喰いワニ「ギュスターブ」
それが東アフリカの内陸部、ブルンジ共和国のタンガニーカ湖、ルルジ川に生息しているナイルワニのギュスターブ(Gustave)だ。
ブルンジ共和国は高原の国であり、タンガニーカ湖の最も低い地点でも標高は772m。ブルンジ共和国はルワンダ、コンゴ民主共和国、タンザニアと国境を接する国で、ルワンダ紛争(1990~1993)のように、多数派のフツと少数派のツチの間で長い対立がある。アフリカの中でも経済開発が遅れている国のひとつで、世界最貧国に数えられる。
アフリカのほぼ全土に生息するナイルワニもイリエワニと同程度の大きさで知られるが、ギュスターブは現在まで捕獲されていないため、正確ではないが体長は6メートル以上、体重は900キロ以上だと推測されている。ナイルワニは通常4~5メートルなので、ケタ違いの大きさだ。
ギュスターブは人間に危害を加えることで知られ、犠牲者は300人以上という。(注1)。しかも現地の報道によれば「殺すだけで食べないこともあり、楽しみのために人間を嚙み殺している」という話もある。こうなるともはや「魔獣」と呼ぶしかないところだ。
注1/後の調査によれば、他のワニの犠牲者も含まれている可能性が高いとされている。
■人喰いとなった背景に「ルワンダ内戦」があった!?
ではなぜ、ギュスターブは常軌を逸した人喰いワニとなったのか?
そもそもブルンジでは根深いツチ族とフツ族との対立や隣国・ルワンダの内戦の煽りで10年近い内戦が繰り広げられた。そして、この凄惨な内戦により川に遺棄された人間の遺体を食べて味を覚えたという説や、体が大きくなりすぎて俊敏な獲物が捕食できなくなった、という説が唱えられている。
この巨大なワニは、1990年代から現地で研究を続け、観光ガイドとして働くフランス人駐在員、パトリス・フェイ(69)によって、ギュスターブ(Gustave)と名付けられた。歯の抜けが少ないため、2010年に年齢は68歳と推定された。2022年現在、生きていいれば80歳になっているはずだ。
パトリス・フェイは2004年公開のドキュメンタリー作品『Capturing The Killer Croc 』に出演し、ギュスタープを捕獲しようと試みた。2年間準備し、政府から2ヶ月の期間を与えられたが、政権交代があり、内戦になる危険性があったため、調査は中止された。
『Capturing The Killer Croc 』のフル動画
■2015年、再び姿を現した伝説の凶獣!
ギュスターブの体には、機関銃や拳銃による弾痕がいくつか目視されているが、致命傷には至っていない。2008年を最後に目撃証言は途絶えていたが、2015年6月に、地元住人が水牛を捕食する姿を目撃したため、生存が確認された。
ギュスターブはおそらく現存する世界最大のワニだろう。高原地帯という環境のせいなのか、なにか別の要素が原因で大きくなったのか、突然変異なのか、その実態は不明のまま。
世界中の研究者が注目する存在だが、ブルンジ共和国の政情が不安定な中では、満足な調査は行なえない。世界が平和になることを祈りたい。