前編では「コロナワクチンにマイクロチップが仕込まれている!」という陰謀論から、実際の医療用マイクロチップを紹介し、中編では体内でロボットが病気を治すナノボットの医療技術を紹介した。医療技術の進歩はさらに、機械を体に埋め込み人類を超人類へと進化させようという壮大な夢へとつながっていく──。
■身体機能を拡張する医療技術?
不整脈の人は心臓にペースメーカーをつけて正常な状態に保つ。近視・遠視を矯正するために眼内レンズを埋め込んだり、折れた骨を補強したり延長するためにチタン材を使う──いまや体の不具合を治すために、体内に人工物を埋め込むことは常識だ。
ただし、これらは体の不調や病気といった「マイナスをゼロにする技術」だ。たとえば眼内レンズなら、衰え低下した視力を取り戻すことはできるが、視力を5.0にしたり、先天的な障害で目が見えない人に視力を与えられるものではない。
だが、医療機器メーカーとIT企業がまさに今、共同開発を進めているインプランタブルデバイス(=体内埋め込み型IT機器)は「ゼロをプラスにする技術」だ。体に欠けている、あるいは本来ない機能を機械によって足していくのだ。
■ポカリの大塚製薬も研究に参入
とはいえ、体に埋め込むには外科手術が必要になるため、まだまだハードルが高い。そこで考えられたのが「デジタルメディスン」だ。
たとえば、「エビリファイ」という向精神薬は、飲み忘れや飲み過ぎが健康に即座に影響する。そこで、日本の大塚製薬とアメリカのプロテウス・デジタル・ヘルス社は、前編で紹介したようなマイクロチップを錠剤に組み込んだ「エビリファイ マイサイト」を共同開発した。
「エビリファイ マイサイト」は飲んでから体外に排出されるまで、何時に何錠飲んだかを、体表に貼った「マイサイトパッチ」という受信機に送信する。このデータを使って飲み忘れや飲み過ぎを防ぐわけだ。
また、その日の気分を記録しておくと、データと照らし合わせて、薬の効果をチェックすることまでできる。さらに現在は、「マイサイトパッチ」に加速度センサを入れて、夜間の寝返り回数から睡眠状態を把握しようという応用技術も検証中だそうだ。