世界史上、もっとも悪名高い独裁者、アドルフ・ヒトラー。
ヒトラーの側近、ヨーゼフ・ゲッペルスやルドルフ・ヘスの名はよく知られているが、さらにその裏で暗躍し「第三帝国の予言者」と恐れられたのが、千里眼(透視能力者)、エリック・ヤン・ハヌッセンだ。

600万人以上の犠牲者を出した、史上最悪の独裁者アドルフ・ヒトラー。
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当時はヒトラー以上に世界中で知られていたにもかかわらず、その後、歴史の闇に葬られたその名が、2024年夏、突如SNSで連呼される異常事態が起こったのをご存じだろうか?
■急浮上したハヌッセンとは誰だ?

ドイツ国民の熱狂的な支持を受けた背後に怪人物ハヌッセンの存在が……。
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きっかけは、2024年7月からスタートし、話題を呼んだ櫻井翔主演のドラマ「笑うマトリョーシカ」(TBS)だ。
櫻井演じる若き政治家・清家の快進撃と、その裏で彼を自分の都合のいいように操ろうとする秘書や母親、恋人の思惑を、ヒトラーとハヌッセンの関係になぞらえ、ストーリーは進んでいく。
櫻井の怪演もあり、「自分の意思はないが人の意見をスポンジのように吸収する突出した才能がある。そんな人が誰かに操られ、権力を手にしたらどうなるか?」というゾッとするような、「もしも」の世界が描かれていた。
空っぽの(ある意味、純粋な?)人物を自分の野心のために操る「ハヌッセン」とは誰なのか? ドラマでその名がセリフで叫ばれるたび、謎と恐怖が膨らんでいく。
ドラマの中での謎解きも興味深いが、そのモデルとなった「ヒトラーを操った男」ハヌッセンの正体とは──。
■ヒトラーの霊的アドバイザー!?

ハヌッセンの「予言」が的中したとされる国会議事堂放火事件(詳細は後編で)
画像:Bundesarchiv, Bild 102-14367 / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 DE , via Wikimedia Commons
エリック・ヤン・ハヌッセンは千里眼(透視能力)や予知能力を持ち、「ヒトラーの霊的アドバイザー」、「第三帝国の予言者」として、さまざまな助言をしたと言われている。
ハヌッセンの「予言」については、当時から、まことしやかな噂が数多く囁かれた。たとえば、ヒトラー自身も絶望視していた首相就任や、ナチス独裁のきっかけになった、1933年2月の「ドイツ国会議事堂炎上事件」(注1)も予言。
注1/1932年2月27日の深夜、放火に寄り国会議事堂が焼け落ちた。当初、実行犯はオランダの共産党員マリヌス・ファン・デア・ルッペとされたが、ナチス突撃隊の関与が疑われている。
これにより、ドイツ国内外で「ヒトラーには恐るべき予言者がついている」と噂が飛び交った。さらに、ヒトラーが権力を握れたのは、ハヌッセンが贈った「呪物・マンドレイク」(注2)の力だったという、まことしやかな噂も囁かれたという。
注2/ナス科植物マンドラゴラ属の植物で、その根が魔術、錬金術に使われ、持つ者に不老不死や成功を与える護符や呪物とされた。別名マンドラゴラ。