2017年頃、我が国、韓国でホンパプ(혼밥=ひとりメシ)やホンスル(혼술=ひとり酒)という言葉が注目された。ひとり世帯が増えて孤食の機会が多くなったことや、個人主義が発達し、孤食をさみしいと感じるより気楽だと感じる人が増えたことが背景になっている。

 しかし、コロナ禍になり、家族で食事することのあたたかさにあらためて幸福を感じたり、外で仲間と会食することを恋しく思ったりする人が増え、ともに食べることの楽しさが再評価されてきている気がする。

韓国人はともに食べ、ともに飲むことが好き。手前右端が筆者

韓国ドラマシスターズ』に登場した鍋物

 もともと我が国では、ともに食べたり飲んだりすることで心の安らぎを感じたり、共同体意識が強まると考えたりする人が多い。

 1960年代前半から1970年代末までの長きに亘り大統領を務めた朴正煕(パク・チョンヒ)はそんな国民の感情を利用し、田舎町を訪問しては農民たちとマッコリを酌み交わすことでイメージアップを図った人だ。

農村の唐辛子収穫を手伝わせてもらったときの筆者。朴正煕のイメージアップ作戦もこんな雰囲気で行われていた

 日本には「同じ釜のメシを食った仲」という言葉があるが、韓国で仲間意識が強まる食べ物というとやはり鍋(チゲ)だろう。とくにこれからの季節は、気の置けない仲間と「鍋を囲む」という言葉がぴったりくる。

 Netflixドラマ『シスターズ』は、家族で食事するシーンで始まり、家族で食事するシーンで終わった印象だ。後者には、自宅のテーブルに牛肉の赤身やシイタケ、エノキダケなどが見られ、卵の黄身を溶いた小皿も映っている。スープが赤くないので、おそらく日本式のすき焼きだろう。韓国ではしゃぶしゃぶほどの知名度はないが、ソウルなどの都市部には専門店もあり、最近は家で作る人も珍しくない。

 すき焼きのような、唐辛子を使っていない鍋が似合うのは、それを食べる者の心が平静であるときのような気がする。良きにつけ悪しきにつけ感情の起伏が激しいときは、辛い唐辛子で真っ赤に染まった鍋でソジュ(焼酎)をあおるシーンが似つかわしい。

『シスターズ』の2話で、長女(キム・ゴウン)と次女(ナム・ジヒョン)が半分怒りながら、激辛ソースで和えた汁なし麺のヨルムククスにさらに辛いキムチをのせて食べたシーンも、それに類するものだろう。

韓国の赤くて辛い鍋物には、激しい喜怒哀楽の感情が似合う