前回につづいて、韓国のチャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺)の話である。

 この料理は、黒味噌をベースにしたソースをの上に載せる。一般的な韓国料理の店にはなく、看板に漢字が躍る中華料理店にしかない。そこには韓国風料理もあるから、僕は勝手に韓国中華店と呼んでいる。

 はじめてチャジャンミョンを食べたのは1988年。もう35年も前になる。そのとき、僕は『12万円で世界を歩く』という週刊誌の連載の旅をつづけていた。韓国の釜山を訪ね、案内役を頼んだ日本留学組の青年に連れられてその店に入った。路地裏の小さな店だった。

 その麺はそれまで口にした韓国料理とはまったく違っていた。まず辛くない。どこを探しても唐辛子はみつからなかった。見た目はよくない。茹でた汁なし麺の上に黒いソースがかかっているのだ。

「韓国でいちばん安い麺料理です」

 という説明を受けた。そのときのノートを見ると、700ウォンと書かれている。当時のレートで120円ほどだった。その後、韓国はアジアの通貨危機に端を発した経済危機に陥り、一時は国際通貨基金(IMF)の管理下にも入った。

 インフレは急激に進み、いまは6000ウォン前後、660円ほどはする。しかし、「韓国でいちばん安い麺料理」という位置はしっかりキープしていた。

 はじめて韓国を訪れてから、僕はチャジャンミョンをよく食べた。理由は安かったからだ。味よりも安さを優先させてしまう。僕はそんな旅行者である。

ソウル駅のフードコートのチャジャンミョン。飽きがこない味だ。小皿はたくあんとキムチ