実際、韓国人は牛肉より豚肉を多く食べている。OECD(経済協力開発機構)の調べによると、韓国人の年間肉類消費量は51・3キロで、1位が豚肉の24・4キロ、2位が鶏肉で15・4キロ、3位が牛肉で11・6キロだった。つまり約半分を豚肉が占めている。焼肉に豚肉がしばしば登場するのは当然だった。
日本の焼肉は、おそらく高級感に裏打ちされた牛肉志向ではなかったかと思う。アメリカ風の牛肉ステーキが象徴する牛肉文化は豊かさの象徴だった気もする。焼肉もその流れに沿ったようにも思える。ハレの日にちょっと豪華に焼肉……そこでは牛肉がピタッとはまる。牛肉のほうが儲かるという焼肉店の事情もあったのかもしれない。
話が豚肉と牛肉に移ってしまった。元に戻ってサムギョプサル。その店を選ぶとき、知人がこういったのだった。
「○○は焼いたキムチと三枚肉のバランスがよくない?」
「そう、あの酸味ね」
同行する知人も頷く。あっさり店が決まってそこに向かいながら、僕は首を傾げていた。
「キムチを焼く?」
いまになって思えば、あのときが、僕にとっての新しいキムチ世界に足を踏み込んだときだった。そして僕は、その火を通すキムチに傾いていくことになる。
(つづく)