漬物を焼く、というか炒める……。その味わいが好きなのは、僕が信州という土地で育ったからかもしれなかった。信州には野沢菜という漬物がある。母親は冬になる前、野沢菜を漬けた。信州ではお茶請けが野沢菜漬けになるほどポピュラーなものだった。

 漬けられた野沢菜はしだいに酸味を増していく。寒い信州の冬をすごした野沢菜は飴色に変色していく。信州ではそんな野沢菜を切り刻んで炒めることがよくあった。それをご飯の上にまぶし、ふりかけのようにして食べる。酸味が少し消え、甘みすら感じた。僕はこの野沢菜の方が好きだった。

 高菜の漬物にも同じような調理法がある。小さく刻んだ高菜の漬物を加えた高菜チャーハンはかなり広まっている。

 信州には「おやき」という饅頭のような食べ物がある。小麦粉とそば粉で生地を練り、具を入れて焼いたものだ。この具は自在で、あんこのおやきは饅頭のような顔をしているが、野沢菜やナスの味噌炒めなどになるとおにぎりに近づく。おやきに入る野沢菜は店によって違うが、僕は野沢菜の古漬けの味噌炒めが好きだった。

 いってみればこれは焼き野沢菜で、サムギョプサルの焼きキムチに近い味がする。子供の頃から親しんだ味に、ソウルのサムギョプサルの店で出合ったということか。

 キムチの話はもう少しつづく。次回はキムチの古漬けの世界を。

信州の野沢菜おやき。最近はそば粉を使わず、小麦粉だけのおやきも多くなってきた