■ユ・ジテ主演『女は男の未来だ』(2004年/ホン・サンス監督)
ホン・サンスの映画のなかでは、この翌年に公開された『映画館の恋』に次いで陰鬱な作品だ。映画監督の先輩(キム・テウ)と美大講師の後輩(ユ・ジテ)。この二人の小競り合いが生む不協和音。そして、後輩と教え子数名との飲み会の居心地の悪さ。安宿での教え子との中途半端な戯れ。それを阻もうとする教え子のボーイフレンド……。
全編を通じて陰鬱さに支配されているのだが、ソウルや京畿道らしいふわふわと降る雪と、地面に薄く積もった雪の美しさが、映画を観るに堪えるものにしている。ラストシーン。深夜、後輩が雪の中でひとり佇んでいる姿は、この作品をいっそう味わい深いものにした。
■ハン・ソッキュ&シム・ウナ主演『八月のクリスマス』(1998年/ホ・ジノ監督)
1990年代の作品でありながら、韓国映画らしくない淡々とした映像、抑えた演出が印象的だ。今観ると、デジタルカメラが普及し始めた90年代末に、フィルムカメラと紙焼き写真に対する愛着を隠そうとしなかった点が興味深い。この点、スマホ時代にフィルムカメラで写真を撮る女子高校生が登場する『ユンヒへ』と同じ匂いを感じる。
タイトルに「クリスマス」が冠されているが、雪と出合うには終盤まで待たなければならない。主人公の父(シン・グ)が写真館を出て息子(ハン・ソッキュ)が愛用していた赤いスクーターで出発する。その直後に現れる黒いコートの女性(シム・ウナ)が店先に飾られた自身のポートレートを見て微笑み、やがて去ってゆく。ドラム缶の焼き窯に薪をくべる石焼芋売りの男性。クリスマスケーキらしきものを片手に楽し気に通り過ぎる家族連れ……。
都会ではなかなか見られなくなった冬らしい光景だ。本作劇中の設定はソウルだが、実際の撮影は全羅北道の群山(クンサン)で行われている。