■1995年の屋上と2024年の屋上

 屋上で物語が展開する作品で忘れられないのが、1995年の映画『灼熱の屋上』だ。猛暑のアパート(団地)。夫からの暴力に耐えかねて逃げ出してきた女性を助けようとした同じ団地住まいの主婦、ホステスら女性数人は、勢い余って夫を死なせてしまう。追いつめられた彼女たちは団地の屋上に籠城。警官隊と攻防を繰り広げる

 彼女たちは女性が生きづらい社会に疲れていて、それに抗う気持ちが屋上で爆発した。のちの映画『子猫をお願い』(ペ・ドゥナ)、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョン・ユミコン・ユ)、『はちどり』(パク・ジフ)などに通じるフェミニズム映画である。

 1995年といえば我が国が軍事独裁から民主化へ移行する混乱期。当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が経済政策に失敗して外国債務を就任時の3倍もかかえ、この2年後にはIMF管理下に置かれることになる。

『灼熱の屋上』は、女性の怒りが爆発する場が屋上なので、『ドクタースランプ』をはじめとする今の韓国ドラマの屋上とはだいぶ趣が違う。30年も前の映画だから隔世の感がある。今以上に女性が生きづらい時代なので胸の痛むシーンも多いが、西洋的洗練が進んだ今の我が国にはないアジアらしい荒々しさがどこか懐かしくもある。(後編につづく)

日本から来たテレビ撮影チームから、「街を俯瞰できる場所を探してほしい」とよく言われるが、屋上が開放されていることの多い韓国では比較的容易に見つかる