Netflix涙の女王』の財閥令嬢ヘイン(キム・ジウォン)は総じて凛とした印象だったが、地方出身のヒョヌ(キム・スヒョン)と恋愛、結婚するなど、自分とは不釣り合いな事象に関わることで物語を生む存在だった。

 食の面でもそんな場面があった。第8話、ヒョヌが通っている食堂に一人で入ったヘインが、柱を挟んでたまたま背中合わせに座っていたヒョヌに見つからぬよう、店員に小声で言う。

スンデクッパ ハナ、ソジュ ハンビョン(腸詰のクッパひとつ、ソジュ1本)」

 スンデクッパとはスンデ(豚の血、もち米、春雨などが入った腸詰)やコプチャン(豚の内臓)を入れたスープとごはんのこと。

 ソジュは日本ではチャミスルなどの商品名が浸透している韓国焼酎のことだ。

■スンデクッパはどんな食べ物?

 スンデクッパとソジュ。これはヘインのような財閥令嬢には不似合いな注文だ。

 背中合わせに座っているヒョヌと同席していた友人が、「奥さんが匂いを嫌うからって食べられなかったスンデクッパを、こうして食べられるんだから離婚も悪くないな」と言っているように、スンデにはレバーのような独特の匂いがあり、抵抗を感じる人も少なくない。

 そもそもスンデクッパは庶民的というか野趣のある食べ物だ。

 たとえば、高級ホテルの韓式食堂には、カルビタン(牛カルビスープ)やソルロンタン牛肉と牛骨スープ)、コリタン(牛テールスープ)はあっても、スンデクッ(腸詰スープ)はまずない。「牛高豚低」とでも言うべき牛肉を上位と見る食文化のせいもあるが、スンデクッパはけっして気位の高い食べものではないのだ。

 スンデはスンデ専門店やヘジャンクッ専門店、酒を出す屋台で食べられる。

 ソウルなら、鐘路3街の有名焼肉店「味カルメギサル専門」の裏手にある「イギョンムン・スンデコプチャン」や、ソウル旧市街を南北に連なる世運商街にあるホテルPJ脇の「サンスカプサン」が有名だ。昼はスンデクッパを、夜はスンデで一杯やる人が多い。また、仁寺洞の東隣にある楽園商街脇のクッパ横丁にも出す店が集まっている。

専門店のスンデ
スンデクッ(汁物)に入っている腸詰と内臓。この通り、見た目は少々グロテスク