Netflix配信注目ドラマ『家いっぱいの愛』は、ソウルのビラ(低層マンション)に暮らすシングルマザーのクム・エヨン(キム・ジス)とその長女ピョン・ミレ(ソン・ナウン)、長男ピョン・ヒョンジェ(ユンサナASTRO)の三人の物語として始まる。

 そんな一家の前に、ビラの新オーナーとして、父ピョン・ムジン(チ・ジニ)が11年ぶりに姿を現す。しかし、彼は経済的な問題で家族を苦しめ、娘から「消えて」と言われてしまう存在だ。

 謎の多い人物、ムジンの第3話の言動にフォーカスしてみよう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix注目作『家いっぱいの愛』チ・ジニ扮する父ピョン・ムジンの心を満たした酒は?

 ピョン・ムジンは一見、男前のアボジ(お父さん)だが、家族に迷惑をかけた過去のエピソードがたびたび登場するせいか、二枚目になりきれない。また、時折見せる鋭い眼光に裏社会の匂いを感じさせるが、イマイチ板についていない。

 そんな彼が部屋でひとりくつろいだ様子で、ウイスキーをグラスに注いでいる。ボトルの色や形状から、ロイヤルサルートの21年ものだとわかる。20万~30万ウォンはする高級スコッチウイスキーだ。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が好んだシーバスリーガルと同じメーカーの作品で、まさに高嶺の花である。

 ムジンはそれをひと息で飲むが、すぐに酒を変えてしまう。今度は空色の半透明のボトルをいつくしむようにショットグラスに注ぐ。目を閉じてグラスを乾し、歓喜のため息。そしてひと言。

「やっぱりこれだ」

 酒はスーパーやコンビニで2,000ウォンもあれば買えるソジュ「眞露イズベク」。そのままコマーシャルになりそうな映像だが、多くの韓国人が「やっぱりこれだ」に共感したはずだ。

チ・ジニ扮する父ムジンが飲んでいたのはソジュ「眞露イズベク(is back)」

■酒類が多様化した今も、韓国の国民酒は“ソジュ”

 我が国で飲まれる酒は20年ほど前から多様化が始まった。2000年頃、大衆的な飲食店ではソジュ(希釈式焼酎)が1~2種類、ビールが1~2種類。それ以外は清河(チョンハ)という韓国式日本酒か百歳酒(ペクセジュ)という韓方酒があるくらいで、マッコリは置いていなかった。

 その後、ワインブーム、マッコリブームが起き、ウイスキーや日本酒、韓国の伝統酒などが脚光を浴び、酒は「酔うため」から「味わうため」に飲むものに変わっていく気配がある。2000年からのコロナ禍で外での飲食が自粛されるようになると、その傾向に拍車がかかる。

韓国の大衆酒。左からマッコリ、ソジュ、ビール(TERRA)、ビール(Kelly)