今年の7月、韓国政府が発表した最低賃金は、日本でも話題になった。その内容は、2025年の最低賃金を時給1万30ウォンにするというものだった。当時のレートで換算すると、約1160円になる。

 日本での話題は、その額が、東京の最低賃金より高いことだった。

■最低賃金が東京より高くなった韓国、物価高のソウルに増える店は?

 かつての韓国の物価は、日本に比べるとかなり安かった。それに反応して、僕のような旅行者が、下関から関釜フェリーに乗って韓国を旅した。関釜フェリーには、日本と韓国の物価格差を利用する小商いの女性が多く乗っていた。韓国で仕入れた物資を日本で売る女性たちだった。

 しかしその後、韓国の経済発展は着実で、日本との格差は縮まっていった。最近のソウルの物価は、円安も手伝ってかなり堪える。サラリーマンが昼食で入る食堂のメニューを眺めて天を仰ぐ。1品1万ウォン以上はする。いや1万2000ウォン以上……。日本円にすると1000円以上になる。日本のチェーン店での昼食は1000円を超えるとなかなか注文が入らないという話も聞いていた。

 旅行者レベルの感覚なのだが、ソウルの物価は確実に日本より高かった。そうなれば最低賃金があがるのは当然の流れなのだが、昔を知っている身には、肌感覚としてついていけないのだ。

 時給1万ウォンを超える最低賃金は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権の公約でもあった。しかし結局、1万ウォン超えを実現できずに政権は変わったが、今年、あっさりと超える発表になった。

 しかしソウルの知人たちの表情は決して明るくない。

「時給1万30ウォンは高すぎる。従業員に払えない飲食店は多いはず」

「去年あたりからソウルでは無人店が一気に増えたでしょ。時給が高いから無人店に方向転換する店が多いんですよ」

 たしかにいまのソウルでは無人店が増えている。無人ラーメン店が話題になったこともあった。すべて機械がつくってくれるラーメンで、外国人観光客も物見遊山でやってくるという話を聞いた。

 無人店……。僕も行ってみることにした。ソウル在住の知人によると、無人カフェがいちばん多いという。