午前10時頃、知人と弘大入口駅近くのカフェで打ち合わせがあった。話も終わり、無人店の話をした。

「このへんに何軒もあると思いますよ。検索してみましょうか」

 すぐにみつかった。無人のカフェだった。アイスクリームも扱っているようだった。しかしそこに行ってみると、店は閉まっていた。知人が再検索した。

「すいません。店は12時オープンでした」

「無人の店って24時間営業じゃないんですね」

「ここはそうみたい」

 近くに無人の帽子店もあった。ここは開いていた。といっても、店員はいない。客もいなかった。小さな店だが、壁、そして店内にずらりと帽子が並んでいる。

 なんだか不思議な空間だった。湖の底のように静かなのだ。あたり前だが、人の気配はない。知人と話すこともはばかられるような店内なのだ。

 ここに入って、好みの帽子を手にとる客の姿が想像できない。店の奥に機械があった。ここにタグをあて、提示された金額をクレジットカードで払っていく。周囲を見ると、何台もの監視カメラがとりつけてあった。これらがどれも僕を映している。カメラのレンズが人の目のようにも思え、なんだが身の動きがぎこちなくなる。

 帽子を買うつもりもないから、なにをしたらいいのかわからない。知人と店を出た。

「なんだか息が詰まるね」

 知人の言葉に僕は頷いていた。(つづく)

無人の帽子店。帽子は自由に手にとってかぶってみることができる