Netflixで配信が始まった新作映画『武道実務官』は、再犯率の高い前科者を監視し、犯罪を未然に防ぐ武道実務官にスカウトされた主人公イ・ジョンド(キム・ウビン/『私たちのブルース』)と上司キム・ソンミン係長(キム・ソンギュン/『ソウルの春』『ムービング』)の物語だ。

 原題のハングルを漢字化しただけのごつごつとしたタイトルから、よくあるバディもののクライムサスペンスだろうと思って観始めたが、出だしのキャラクター紹介で「えっ!?」となった。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix映画『実務武道館』キム・ウビン演じる主人公の「文武両道」はゲームとスポーツ

 物語はジョンドの独白から始まる。

「オレは健康と幸せのために、楽しいことしかしない」

 正義とか世のためといった大義名分のまったくない、社会性に乏しい言葉だが、それがかえって新鮮だ。韓国でも日本並みに個人主義が発達したのだろうか。さらに驚いたのは次の独白だ。

「オレがいちばん好きなのはスポーツとeスポーツ」

 ジョンドはテコンドー3段、柔道3段、剣道3段。一方、eスポーツの「e」は「electronic」の頭文字、つまりコンピューターゲームだ。

 筆者の世代(1960年代生まれ)はコンピューターゲームにハマった最初の世代でありながら、ゲームに没頭することに引け目を感じる者が少なくない。だから、ゲームがヒーローの素養のひとつになっていることに違和感があるのだが、それはもう時代遅れなのだろう。

 最近のNetflixドラマ『Missナイト&Missデイ』にも、主人公の20代女性(チョン・ウンジ/Apink)がラーメンをすすりながら、オンラインゲームをのびのびと楽しむシーンがあった。今や韓国の大学にはeスポーツ学科があるくらいなので、ジョンドは「文武両道」に優れた者と言っていいかもしれない。

■学歴や性的嗜好は不明、酒は飲めない主人公

 しかし、この映画にはジョンドと本来の「文」が意味する「学問」との関わりについて、まったく描写がない。 

 映画でもドラマでも韓国のヒーローの多くは高学歴で腕っ節が強い。最近のNetflixヒット作『涙の女王』のヒョヌキム・スヒョン)はその典型だ。本来の意味の「文武両道」である。しかもジェントルで女性にモテる。

 ジョンドの前職はチキンの出前持ち。学歴は不明である上に、性的な嗜好も不明。1時間49分の間、ラブロマンスの匂いはゼロ。「アルコール分解酵素がないので」(本人談)酒が飲めないのも今風だ。

『武道実務官』劇中、キム・ソンミン係長とイ・ジョンド、eスポーツ仲間たちが食べていたのは、ミナリ(セリ)サムギョプサル