■片思いの相手の家の塀を乗り越え、真夜中に大騒ぎした先輩の思い出

『おつかれさま』9話の騒動を見て、筆者は1990年代後半の日本留学時代、バイト先(焼肉店)の先輩留学生キム某から聞いた話を思い出した。

 キム某は忠清南道の出身で絵に描いたような純朴青年だったが、学業は優秀で、1980年代前半、韓国でもベストテンに入る大学の法科に入った。田舎からソウルに出てくると、「街を歩いている女性が全員美人に見えた」(本人談)そうで、同じ学年の女子にたちまち一目惚れした。

 しかし、もともと口下手な上、忠清南道訛りが恥ずかしくて男子ともろくに話せなかったのだから、愛の告白などできるはずもない。キム某は『おつかれさま』2話終盤の字幕に登場したキム・イル(日本名、大木金太郎)が外国人レスラーの反則攻撃に耐えるように、相思病(サンサピョン、恋患い)と向き合っていたが、とうとうそれが外国人レスラーをなぎ倒す力道山(ヨクトサン)のカラテチョップのように爆発する。

 ある夜、彼はソジュを何本も飲み、同級生に片思いの苦しみを打ち明けると制御不能となり、無謀にも新村(シンチョン)にあった彼女の家に一人向かった。

 朝、彼女の自宅の庭で目覚めるキム某。それをあきれ顔で見つめていたのは彼女の父だった。

「真夜中に娘の名前を大声で何度も叫んでスッキリしたか? ウチでヘジャンクッでも食べて行け」

 もしかしたら、この父親も『おつかれさま』のグァンシクのように、かつての自身の姿とキム某を重ねたのかもしれない。今なら通報ものだろうが、1980年代前半の我が国は人の心の痛みがわかる人の多い、おおらかな時代だったのだ。

『おつかれさま』は、1960年代から1990年代の韓国の空気をニュース映像や音声、流行歌などを使って再現してくれるので、その時代ごとの記憶がまざまざとよみがえってくる。50代以上の韓国人にとってはたまらないドラマなのである。

●配信情報

Netflixシリーズ『おつかれさま』独占配信中

[2025年/全16話]演出:キム・ウォンソク『ミセン ー未生 ー』『シグナル』『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』 脚本:イム・サンチュン『サム、マイウェイ〜恋は一発逆転!〜』『椿の花咲く頃

出演:IU『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『ホテルデルーナ〜月明かりの恋人〜』、パク・ボゴム雲が描いた月明り』『青春の記録』、ムン・ソリ『私たちの人生レース』、パク・ヘジュン『夫婦の世界』、オ・ジョンセサイコだけど大丈夫』、ヨム・ヘランマスクガール』、ナ・ムニ怪しい彼女』、イ・ジュニョン恋するムービー