Netflix人気ドラマ『おつかれさま』では、今の50歳以上の韓国人なら誰もが知っている音楽がたびたび流れる。1970年代から1990年代を象徴する流行歌がそれだ。歌の力というのはすごいもので、聴いた瞬間にその時代に一気に引き戻されてしまう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix『おつかれさま』で流れる音楽は、1970年代から1990年代の韓国歌謡史さながら

『おつかれさま』のオープニングのテーマ曲になっているのは、キム・ジョンミの「春」だ。作曲は韓国ロック界のレジェンドとして日本でも知られているシン・ジュンヒョン(申重鉉)。韓国の厳しい寒さがゆるみ、木の芽が出てふくらむむような空気をよく伝えている。

 ほかにも、映画『ペパーミント・キャンディー』で自暴自棄の青年に扮したソル・ギョングが歌ったサンドペブルズの「ナ オットッケ」。映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』で運転手役のソン・ガンホが気持ちよさそうに歌ったチョ・ヨンピルの「タンバルモリ(おかっぱ頭)」。映画『国際市場で逢いましょう』で軍人役の東方神起ユンホが口ずさんだナムジンの「ニムグァハムケ(あなたと一緒に)」。

 キム・スヒの「愛慕」、ソテジワアイドゥルの「ナン アラヨ」、映画『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』のノレバンのシーンで茶店主人役のシン・ミナが歌ったノコジリの「チャッジャン」など、枚挙にいとまがない。

■愛国歌が流れるシーンで思い出される韓国映画

『おつかれさま』7話では、流行歌以外で韓国人なら誰でも知っている曲が挿入された。高校の校庭で母エスン(ムン・ソリ)と息子のウンミョン(カン・ユソク)が口論しているときに流れた大韓民国国家「愛国歌(エグッカ)」だ。この場面で母と息子は手を胸に当て、言い争いを中断する。

 1980年代末頃まで、我が国では毎夕、公共機関で国旗下降式というものが行われていた。国歌が流れ、道行く人々はその場に直立し、手を胸に当てなければならない。こう言ってはなんだが、若者にとっては北朝鮮からの空襲に備えた民防衛訓練とともにわずらわしい儀式だった。

 映画『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)では、主人公の女子高校生(シム・ウンギョン)が国旗下降式を無視して意中の男の子(キム・シフ)を追いかけるシーンがある。