「ハスクに入りたいのに、空きがなくて……」と、先日会った大学生が、ため息まじりに話すので、私は驚いて聞き返した。「ハスクよりもワンルームマンションのほうが気楽じゃない?」と。
ハスクとは、食事付き学生向け共同住居のこと。漢字で書くと「下宿」。大学の近くに多い。
大家さん宅の一室を間借りしながら大家さん一家と暮らすハスクや、5~6階建てのビルの各フロアに個室がずらりと並ぶハスクなど、そのスタイルはさまざま。勉強机やベッドなどが備わった一人部屋が与えられるのだが、トイレやシャワーは他の学生と共同で使用する場合が多い。
最大の利点は朝食と夕食が提供されること。ただ、大家さんをはじめとする同居人とは何かと顔を合わせるし、時には干渉を受けることも。このため、2000年代以降はハスクよりも個人のプライバシーが守られるワンルームに入居する学生が多くなり、かつて学生街に軒を連ねていたハスクはめっきり数が減ったと聞いていた。
■Netflix『おつかれさま』にも登場した「ハスク」。なぜ今、韓国の大学生のあいだでブーム?
日本で人気の韓国ドラマにもハスクが登場する作品がいくつかある。
「百想芸術大賞」で8部門にノミネートされているNetflix最新ヒット作『おつかれさま』では、主人公エスンとグァンシクの娘クムミョン(IU)が日本留学を終えて韓国に戻り、最初に住んだところがハスクだった。
また、ユ・ヨンソクやソン・ホジュンの出世作となった『応答せよ1994』は、ハスクを舞台にさまざまな人間模様が描かれ、人気を博したドラマだ。
『応答せよ1994』は2013年、『おつかれさま』は今年のドラマだが、いずれもハスクが登場するシーンの時代背景は1990年代だ。
ところが、2025年の今、ハスクへの入居を希望する学生が多く、中には数十人が順番待ちをしているところもあるという。人気の最大の理由は、家賃の安さにある。日本同様、韓国も食料品から光熱費、家賃にいたるまで、あらゆる値段が高騰している。
ソウル一の学生街、新村の不動産屋によると、現在、10坪未満のワンルームに入居しようと思えば、保証金1000万ウォン(約100万円)に、月々の家賃60〜70万ウォン(約6〜7万円)が必要だという。家賃は昨年よりも10%ほど値上がりしているとか。
これに食費や光熱費を加えると、ひと月の生活費は130〜150万ウォン(約13〜15万円)かかってしまう。一方のハスクは、朝夕2食付きで1ヶ月の家賃は50万ウォン(約5万円)ほど。学生がハスクに住みたくなるのもわかる気がする。
最近、ワンルームからハスクに住居を移した学生に話を聞くと、大家さんが作ってくれるあたたかいご飯が食べられること、「いってらっしゃい」「おかえり」と、同居人と声をかけあうことも、ワンルーム暮らしにはなかったハスクの魅力だという。
