「この店は自分のYouTubeのためにとっておいたのですが、松重さんのために公開します」と、ソン・シギョンがもったいつけて紹介していたように、Netflix日韓グルメバラエティ隣の国のグルメイト』12話に登場した江南・狎鴎亭エリアの「漢誠カルグクス」(1983年創業)はとても魅力的な店だった。

■『隣の国のグルメイト』で松重豊の心をつかんだ料理、ジョンとは?

「漢誠カルグクス」はカルグクス(カルククス)という料理を看板に掲げているものの、実際は肉料理や野菜や魚介の揚げ物、炒め物などが充実している人気店だった。そのなかでもジョン(チヂミ)は松重豊の心を動かし、家族にも食べさせたいとまで言っていた。

 日本人のあいだではまだチヂミという別名(方言)のほうがよく知られていると思うが、ジョンとは薄く切った野菜や肉、魚を塩などで味付けし、小麦粉や溶き卵の衣をつけて揚げ焼きしたものだ。醤油系のタレにつけて食べることが多い。

 パジョンをチヂミの総称と思っている人もいるが、パジョンの「パ」はネギのことで、ネギのジョンを指す。だから、エビ(セウ)を使ったものはセウジョン、牡蠣(クル)を使ったものはクルジョン、ズッキーニ(ホバク)を使ったものはホバクジョンと呼ぶ。ピンデットッは緑豆粉を揚げ焼きしたもので、緑豆(ノクトゥ)ジョンとも呼ばれている。

中央がズッキーニに衣をつけて揚げ焼きしたホバクジョン

■ジョンは庶民の酒肴、合うのはマッコリ

 ジョンは「漢誠カルグクス」のような少し高級感のある飲食店や韓定食の店にもあるが、どちらかというと庶民の酒のつまみのイメージが強い。ソウル鐘路5街駅近くの広蔵市場や、新堂駅前の中央市場など食べ物屋台が集まっているところで出合えるだろう。ひと昔前までは忠武路駅前からホテルPJ前まで続くイニョン市場のような小さな生活市場でも店先で焼く姿が見られた。

 また、アヒョン駅前のアヒョン市場や孔徳駅前の孔徳市場にはブッチムゲ(揚げ焼きの総称)横丁もある。

 ジョンは揚げ物だが、肉、魚、野菜など具が多彩なので飽きずに食べることができる。マッコリと合うといわれる理由はさまざまだが、油で揚げ焼きれたジョンの香ばしさとマッコリの甘味と酸味、発泡の清涼感との相性のよさが挙げられるだろう。

1999年のイニョン市場。右手でハルモニがジョンを焼いている
アヒョン駅前、ブッチムゲ横丁のマッコリとジョンの盛り合わせ。手前から鱈、ズッキーニ、エゴマの葉
ブッチムゲ横丁にはかつて十数軒ジョンの店が並んでいたが、ここ数年の再開発で半減してしまった