ムービング』のリュ・スンリョン、『30だけど17です』のヤン・セジョン、映画『僕の妻のすべて』のイム・スジョン、映画『ソウルの春』のキム・ウィソン、映画『ボゴタ 彷徨いの地』のキム・ジョンス東方神起のチョン・ユンホら、豪華キャストで話題のディズニープラス配信ドラマ『パイン ならず者たち』。

 米国映画『オーシャンズ11』シリーズやキム・ユンソク主演映画『10人泥棒たち』にも通じる財宝を巡っての群像劇が見ものだ。

■『パイン ならず者たち』の舞台、1970年代の韓国

 物語の核となる財宝が沈んでいるのは、キム・ジョンス扮する仁寺洞の骨董品店社長のセリフにも出てきた新安(シナン)郡。全羅南道・木浦の西側の海に点在する群島で、第15代大統領キム・デジュンの故郷だ。

 海のシーンも清々しいが、背景となる1970年代後半の韓国の空気を伝えるセットも魅力だ。

 経済戦争や競争社会を題材にした韓国ドラマや映画は刺激的でおもしろいが、我が国の場合はそれが絵空事とは言えないので、観ていて疲れてしまうことがある。その意味で、貧しいけれど、人間味のある時代を描いた作品に出合うとホッとする。最近では、IUパク・ボゴム主演ドラマ『おつかれさま』がいい例だ。

 1970年代と言うと、日本はすでに一定の豊かさを獲得していたはずだ。卑近な例だが、1970年代降半には多くの家庭にホットプレートがあり、給料日のあとには肉を焼いて食べていたと日本の知人から聞いて驚いたことがある。一方、1970年代の我が国は工業力においては北朝鮮に後れをとっていたし、ソウルでも汲み置きの水を使っている家は珍しくなかった。

『パイン ならず者たち』で、ヤン・セジョン扮する若者ヒドンとリュ・スンリョン扮する叔父グァンソクが泥棒稼業に精を出していたのもリアリティがある。みな貧困から抜け出そうと必死だったのだ。

 映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の冒頭を思い出してほしい。すでに1980年になっていたが、タクシー運転手(ソン・ガンホ)が仕事中、戒厳令解除を求める学生たちに遭遇し、「デモするために大学に入ったのか? あんな連中はサウジアラビア(当時の出稼ぎ先)で苦労させればいいんだ」と吐き捨てるシーンがあった。

 軍事独裁政権の真っただ中だったにもかかわらず、すでに社会に出ている者の多くは目の前の労働という現実と向き合うしかなかったのだ。

『パイン ならず者たち』ディズニープラス スターにて独占配信中 (C) 2025 Disney and its related entities