今秋の注目作『100番の思い出』は、1980年代、仁川のバス会社で働く女性車掌の友情と恋愛の物語だ。

 主人公ヨンレ(車掌、バスガール)役に『梨泰院クラス』のキム・ダミ、同僚の車掌ジョンヒ役に『コッソンビ熱愛史』のシン・イェウォン、主人公が片思いする高校生ジェピルに『その電話が鳴るとき』のホ・ナムジュン、ヨンレの兄の友人役に『愛の不時着』『哲仁王后~俺がクイーン!?』のキム・ジョンヒョン

 さらに、ヨンレの母役に『私たちのブルース』『Missナイト&Missデイ』のイ・ジョンウン、バス会社の課長役に『犯罪都市』『私たちのブルース』のパク・ジファン、ジェピルの父に『財閥家の末息子』のユン・ジェムンなど、キャストも豪華かつ演技派揃い。物語だけでなく、1980年代の懐かしい風物も見ものだ。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『100番の思い出』の舞台、韓国の1980年代はバスガールが全国的に現役だった

おつかれさま』『パイン ならず者たち』『エマ』『ウンジュンとサンヨン』のように20年以上前の韓国が描かれる作品では、視聴者をその時代にタイムスリップさせるための風物描写が重要だ。

『100番の思い出』では当時のバスやバスガールたちがその役目を果たしている。昔も今もバスは韓国大衆交通の代表だ。1967年生まれの筆者が中高生のとき、白地に青いペイントが施されたバスはソウルやその周辺でよく見かけた。

 可愛らしい制帽と制服に不似合いな全身を使ったアクションで乗客をバスに押し込んだり、オーラーイ! と大声を張り上げ車両のボディを叩いて運転手に発車を促したりするバスガールも懐かしい。チョン・ドヨン主演映画『初恋のアルバム ~人魚姫のいた島~』でもそんなバスガールが描かれていた。

『100番の思い出』のヨンレのバスガール仲間に忠清道全羅道訛りを話している者がいるのも、職を求めて全国から多くの若者が上京した時代を感じさせる。

今でも地方に行くと昔を思い出させるバス車両を見かける
昔を思い出させる地方のバスターミナル

■1980年代の弁当とファストフード

 1話では、ヨンレの片思いの相手ジェピル(ホ・ナムジュン)が学校の昼休みに友だちの弁当をつまみ食いするシーンがあった。その弁当のおかずがナクチポックム(タコの唐辛子炒め)と黒豆煮だったのには驚いた。

 当時の高校生の弁当はごはんに卵焼きとキムチが添えられていればいいほうだったからだ。ごはんとキムチだけの学生も珍しくなかった。

韓定食の準メイン料理として供されたナクチポックム

 ワンマンドゥ(餃子)、トッポッキスンデ(腸詰)、オデン……、バス会社内にある寄宿部屋でボス格の先輩車掌が新入りに買い出しを命じた粉物を中心とした食べ物は、当時の若者たち垂涎のファストフードだった。この先輩は悪役として描かれているが、これにお菓子までおごるというのだから、なかなかの太っ腹である。

左上から時計回りに、トッポッキ、オデン、スンデ