韓国冷麺は平壌冷麺と威興(ハムフン)冷麺がある。その味は違うが、麺も違う。平壌冷麺はそば粉が主体だが、威興冷麺はジャガイモやサツマイモのでんぷん質を原料にしている。だからコシがある。

 スープの答えはなにもみつからないまま、平壌冷麺の麺を啜ってみた。食感は柔らかい。日本のそばに近い食感である。

 僕はこれまで、何回も冷麺を口にしてきたが、こういう感覚になったのははじめてだった。スープの味は茫漠とし、麺はハサミで切るほど硬くない。いままで食べた冷麺のなかにも、レベルの高いものはあっただろうが、韓国冷麺とひとつにくくってしまっていた。やはり初期化が必要だった。

 テーブルの上には液体が入ったボトルがあった。知人に訊くと、ナシ酢だという。

「果物のナシの酢?」

「そうですよ。風味がある。それを入れて食べる人もいます」

 好奇心が先に立ち、ナシ酢を入れてみた。味変にはほど遠いが、ほんのりした風味が鼻腔をつく。

「このナシ酢、いいですね」

 本体の平壌冷麺のスープの味は棚にあげ、なんとなくわかるナシの酢で収まりをつけようとする。

 平壌冷麺への探求……。

 先は長い。

ナシ酢。皿に麺をとり、直接、ナシ酢をかけて食べる人もいるという

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