マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『私の解放日誌』の脚本家パク・ヘヨンの新作『誰だって自分の無価値と闘っている』がNetflixで配信中だ。映画監督デビューを目指すものの20年経っても鳴かず飛ばずで、仲間たちからも疎まれ、精神的に追い詰められているドンマン(ク・ギョファン)と、過労で心を病むPDウナ(コ・ユンジョン)の二人が絶望の淵から少しずつ這い上がっていくヒューマン作だ。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix『誰だって無価値な自分と闘っている』主人公ドンマンが発したユニークなセリフ、韓国人が野菜を食べたいときは?

 本作のなかでも、苛烈な競争社会でもがく韓国人を象徴するような主人公ドンマン。彼の一挙手一投足は注目に値する。3話の冒頭、ドンマンのセリフをフォーカスしてみよう。

「オレ、いま気分いいじゃん。だから野菜食べるんだ」

 シナリオが認められず、いつまでたっても映画が撮れないので、漢江べりの公園でケータリングのテーブルセッティングのバイトをしているドンマンが生野菜をモリモリ食べながら言った。

 ウナと意志の疎通ができて、少しずつ元気になっているから出た言葉だろう。調子に乗ってバイト仲間に、「ごはん食べましたか? 野菜たくさん食べてくださいね」とまで言っている姿には笑ってしまう。

 気分がいいから野菜を食べるというのは、人にもよるが、韓国人ならおおむね共感できるのではないだろうか。

 韓国人家庭の冷蔵庫にはキムチナムルなどの常備菜(ミッパンチャン)が常にあり、食卓にはなんらかの野菜料理が複数添えられる。それは確かなのだが、ストレスが多いとき、むしゃくしゃしたとき、野菜を摂るのがもどかしくなることがある。野菜を箸でちまちま口に運ぶのがめんどうくさいのだ。

 そんなとき食べたくなるのは、炭水化物、辛いもの、歯ごたえのあるものだ。はなはだしいときは、これに酒が加わる。

 本作の1話、ドンマンが薄暗い部屋で一人やけ食いするシーンは圧巻だった。

 呆けた顔でチンマンドゥ(蒸しパン)をむさぼり、白飯を炊飯器からしゃもじで直接食べ、カップを口に詰め込む。さすがに野菜ゼロではまずいと思ったのか、こぶりな大根のキムチをボリボリかじってはいたが、手づかみだったところにドンマンのストレスが感じられた。

忙しい主婦のために市場の惣菜店でも売られている韓国の常備菜
ストレスが多かったコロナ禍の下、コンビニやスーパーでは辛さを強調したインスタント食品が目立っていた
韓国のトッポッキは辛い炭水化物料理の代表