●一国の経済を支配するには……ロスチャイルド家の手口

 

「一国の中央銀行を支配すればその国全体を支配できる」
「私に一国の通貨発行権と管理権を与えるなら、誰が法律を作ろうと、そんなことはどうでもよい」

 これは初代マイアーの言葉とされるが、まさにこの言葉どおり、ロスチャイルド家の最終目標は通貨発行権を握り、一国の経済を(さらには世界の経済を)支配することにあった。そこで取られた手口はおおよそ以下のようなものだ。

 大資本家たちからの出資を元手に、銀行、証券取引所などの金融業、鉄道、海運といったインフラ産業、鉱山や精錬所など金属・資源産業といった「カネとモノの流れ」に関わる産業に先行投資。そこからの利益を戦時国債などの投機でさらに膨らまし、並行して、各国政府などへの貸付も積極的に行なう。これにより経済だけでなく、各国の政治の動きも左右する力を得る。こうして次第に中央銀行への支配を強め、最終的に通貨発行権を牛耳るわけだ。

 ところで、いま挙げた銀行、証券取引所、鉄道、海運、鉱業という業種は、まさに渋沢が真っ先に手掛けた産業と一致している。それ故、欧州派遣の際に渋沢は、銀行などの金融システムだけではなく、ロスチャイルド家の経済支配の手口も学んでいたのではないか? あるいは、もっと直接的にロスチャイルドの指示の下こうした産業を立ち上げたのではないか? との疑惑も生まれる。

 

●明治初期の渋沢の不可解な動きの裏にあったのは……

 

渋沢をヘッドハンティングした大隈。その決断の背後に何が……

 こうした疑惑に加え、欧州から帰国後の渋沢の奇妙な動向も「渋沢栄一=ロスチャイルドの傀儡」という都市伝説を補強する一因だ。例えば、静岡で逼塞中の徳川慶喜の下にいた渋沢は、ある日突然、明治新政府からヘッドハンティングされる。主導したのは当時の大蔵大輔(=大蔵省のナンバー2)で渋沢と一面識もない佐賀藩出身の大隈重信だった。さらに、大隈の下、大蔵省(当初は民部省と一体)で渋沢の上司となったのが長州藩出身の伊藤博文と井上馨だ。

 佐賀藩、長州藩は倒幕の主力となった薩摩藩ともども、長崎のグラバー商会を通じて大量の武器弾薬を購入していた。現在では、グラバー自身はフリーメイソンのメンバーではなかったと否定論が優勢だが、このグラバー商会の親会社にあたるジャーディン・マセソン商会の取締役、ヒュー・マッケイ・マセソンはフリーメイソン・ロンドンロッジの主要メンバーだった。さらに、伊藤と井上に至っては、英国密留学の際の世話役がマセソン自身だったという。つまり、渋沢の明治新政府への登用や、その後ともに仕事をする重要人物には、3人が3人ともフリーメイソンの陰がチラつくのだ。

 

大蔵省の上司で後に行動を共にする盟友、井上。渋沢とはシーボルトというパイプがあった

 さらに、大蔵省時代から下野まで渋沢が行動を共にした井上馨には、前篇(第3回)の記事で紹介したようにフリーメイソンとの関りが深いアレクサンダー・シーボルトが私設秘書としてついていた。

 渋沢が実業界に転じ、瞬く間に資金を集め次々と起業した際も井上は盟友として助力を惜しまなかったが、そこにはシーボルトを通じてフリーメイソンまたはロンドン・ロスチャイルド家から、なんらかの指示や支援があったとも考えられる(あるいは、突然の下野自体がロスチャイルド家の描いた絵図だったのかもしれない……)。