前編と中編では、人間のキャラクターも病気になりやすさも、現代の国民病といわれるうつ病の発症も、すべて腸内細菌がカギを握っているかも? という最新研究を紹介してきた。そして、これまた現代人の“業病”ともいえる肥満もまた、腸内細菌が大きく関わっている。
■おいしいものは、脂肪と糖でできている
「おいしいものは、脂肪と糖でできている」
そんなCMのキャッチコピーを覚えている方も多いだろう。これは科学的にも正しい。というのも脂肪と糖は手っ取り早くエネルギーに変わるため、生物は本能的にこの2つを求める。ラーメン二郎の行列が絶えない理由だ。うまいまずいではなく、圧倒的な背脂と太い麺には、生き物は逆らえない。マシマシは正解だ。
ただし、「おいしい」とはいうものの、脂肪=油は味がない。にもかかわらず、マウス用のレバー式水飲み器にサラダ油を入れておくと、マウスは水飲み器のボトルが空になるまでレバーを押し続ける。油は麻薬のようにマウスの脳を魅了する。
この不思議を解き明かすため、コロンビア大学のリー・メントンらは、水飲み器に油の入ったボトルと人工甘味料のボトルを用意した。脂肪と糖のどちらにより強い習慣性があるのかを調べようというのだ(※1)。
※1 「Gut‐brain circuits for fat preference」(Mengtong Li他 Nature volume 610, pages722~730 2022)
最初は甘いボトルをなめる回数がやや多かったが、24時間後、明らかに油をなめる回数が増えた。さらに、48時間後にはその差が2倍以上になった。マウスは甘いもの中毒にはならなかったが、油中毒にはなった。カロリーが満たされようが、油を飲むことをやめられない。
■舌ではなく腸が欲しがる脂肪
ややこしい話だが、油そのものに味はないものの、舌には油を感じる脂肪知覚細胞がある。つまり、味のあるなしにかかわらず、その知覚細胞の働きでマウスは油に惹きつけられるらしい。
「じゃあ、その脂肪知覚細胞を働かないようにすれば、マウスは油を欲しがらなくなるだろう」
と考えたリーらは、遺伝子を操作して生まれつき脂肪知覚細胞がないマウスを作った。このマウスの舌は油を感じないので、油を喜ぶことはないはずだった。だが……。
マウスは油ばかりを飲んだのだ! 舌が油を感じていないのに? そこで、舌以外の体のどこかに油を感じる部位があるとリーらは考え、ネズミを徹底的に調べたところ、なんと腸に脂肪の受容体があることが判明。検証のため、マウスの腸に油を注入すると、脳の中で、油を飲んだ時と同じ部位が活性化することがわかったのだ。
そう、脂肪も「脳腸相関」をしていたのだ!(「脳腸相関って何?」という方は前編を参照)
腸は脂肪が入ってきたことを脳に伝え、脳は大量の栄養に興奮する。味覚のように脳の知覚部分を介さないので、これは動物的な本能に近い。我慢なんてできない。文字どおり体が喜ぶ状態であり、脂肪に私たちは抗えないのだ。