■都市伝説が囁かれる幻の島

 

ベルメハ島

1846年の地図に描かれたベルメハ島(MEXICOの「X]の上に見える)

画像:Tanner, Henry S., Public domain, via Wikimedia Commons

 メキシコ湾、ユカタン半島の北岸沖にはかつて「幻の島」が存在した。16世紀から20世紀にかけて、メキシコ湾の地図には、「ベルメハ島(Islote Bermeja)」という小さな島が描かれている。

 

 だが、なぜか1997年さらに2009年に行なわれた大規模調査では確認されず、忽然と姿を消してしまった。そして、この幻の島の消滅については、数々の噂や都市伝説が囁かれているのだ──。

 

 ベルメハ島は、ユカタン半島の北岸から約200㎞の沖合に存在したとされる、80平方キロメートルほど(日本でいえば北海道の礼文島ほど)の小島だ。

 

 島の名前の「ベルメハ(Bermeja)」とは「あずき色」や「赤褐色」を意味するスペイン語で、この島を最初に”発見”したスペインやポルトガルの船乗りたちが「遠くから見ると赤みがかってみえる」と言ったことからついた名だという。

 

■16世紀の地図にはすでに存在

 

アロンソ

ベルメハ島の存在を報告した、16世紀の天文学者で歴史家のアロンソ・デ・サンタクルス。

画像:Eulogia Merle, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 すでに16世紀初頭には船乗りたちに知られた存在で、1535年にポルトガルで刊行された地図や、それを下敷きに1539年、スペインの天文学者で歴史家のアロンソ・デ・サンタクルスが法廷に提出した報告書『ユカタンとその周辺の島々』に記されている。

 

 その後、多くの地図や海図に転載され、18世紀までにベルメハ島は地図学上の「常識」となっていった。しかし、20世紀に入り、島を取り巻く環境が激変し始める。まず、地元・メキシコ共和国で1921年公刊の地図に載ったのを最後に、島の位置が記されなくなる。

 

 そして、冒頭に記したように20世紀末には、大規模な調査の結果、正式に島の存在が消滅してしまった。ただし、さらにここから「幻の島」を巡り、大国アメリカを巻き込んだ騒動が発生するのだ──。