■寝ない食べない兵士に改造する

 

放射能に強く、DNA修復能力が人間の1000倍もある細菌デイノコッカス・ラディオデュランス。こうした極限環境を生き残る生物の特性を人間に移転させようというのがインナーアーマーの考え方だ 。

画像:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構

 2007年、DARPAは「インナーアーマー(Inner Armor:体内鎧)」という研究プロジェクトがあることを公表した。

 

 このプロジェクトの趣旨は「より良く、より強く、より速く、そしてより長く戦うこと」ができる兵士を養成するため、バイオテクノロジーで「軍のニーズに合わせて入隊者の体を作り直すこと」なのだという。

 

 とはいえ、入隊者の体を作り直すって、具体的には何をするんだ?

 

 DARPAの説明によれば、戦場がジャングルの場合は虫に刺されても大丈夫なように、核戦争の恐れがある時は放射能汚染に耐えられるように人間を改造する。病気に強く、眠らず疲れず食べず飲まず、ストレスに強い兵士を作り出す。

 

 そのための強化技術を兵士に埋め込む。これを「スキンイン(skin-in)と呼び、兵士の身体と心理を強化するために生物医学的な処理を行なうことを指す。反対にパワードスーツのような外部装備を「スキンアウト(skin-out)と呼ぶそうだ。

 

■脳を操作し、PTSD(精神的外傷)を消す?

VRを使ってPTSDを治療する『Power Dreaming』のイメージ 画像:ICF https://www.icf.com/

 スキン(皮膚の)イン(中に入れる)といっても、必ずしもサイボーグのように機械を体に埋め込むわけではない。病原菌に対してワクチンを打ったり、モダフィニル(注1) のような脳を覚醒させるドラッグを飲ませたりすることもスキンインだ。

注1/医療用の覚せい剤で、72時間眠らない兵士を作るために開発されたが実際には40時間が限界だった。

 

 さらに外傷性記憶をブロックする薬を使ったり、VR(拡張現実)とバイオフィードバックを使って睡眠を操作し、レム(REM)睡眠(注2)を減らしてPTSDが固定化されることを避ける「パワードリーミング=power dreaming」治療などもある。

注2/

 

 ベトナム戦争では、全入院患者の83%が病気や戦闘以外のケガによるものだったという。米陸軍の伝統的な経験則では、身体的死傷者3人につき1人の戦闘ストレスによる死傷者が発生する。PTSDの解決は重要なのだ。重要なのはわかるが、睡眠を操作して脳は大丈夫なのか。

 

※睡眠のなかでも夢を見ている状態を指す