■絶頂から急転直下の粛正!?

 

国会議事堂への放火犯として捕まったルッペは即座に処刑されたが……。

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 実は国会議事堂炎上予言には、「事件の“真犯人”である、へルドルフをはじめナチス幹部が彼に情報を漏らしていた」という疑惑があり、ハヌッセンの突然の変死はこのリークに対する粛正だった可能性がある。

 

 真相は藪の中だが、ハヌッセンが殺された直前の3月23日には、いわゆる全権委任法が成立。ヒトラーは完全な独裁者となった。そんな彼にとり、機密情報を漏らす危険がある占い師など、邪魔者でしかなかったのだろう。

 

国会で演説するヒトラー

全権委任法で独裁体制を固めたナチスにとり、もはやハヌッセンは……。

画像:Bundesarchiv, Bild 102-14439 / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 DE , via Wikimedia Commons

 

 さらに、ハヌッセンはナチスの内情や恥部を知り過ぎたため消された、という声もある。実は「七つの大罪号」での乱交パーティー(前編参照)で、セレブたちの痴態を撮影し、それをネタにハヌッセンは“ゆすり”をしていたのだ。もちろん、常連だったナチスの幹部も被害者の一部だった。

 

 こうして、1933年3月25日、突撃隊に拉致されたハヌッセンは背後から3発の銃弾を撃ち込まれ、ベルリン郊外の森に捨て去られた。翌月7日に行なわれた葬儀には、ナチスを恐れたのか参列者はわずか7人。「世紀の魔術師」と絶大な人気を誇ったカリスマのわびしすぎる最期だった──。

 

ハヌッセンの墓

ベルリン郊外に残るハヌッセンの墓。

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■世紀の超能力者唯一の誤算

 

ルドルフ・ヘスとハインリッヒ・ヒムラー
ハヌッセンの死の背後にはヘス(左)やヒムラー(右)の意志が働いていたとの説も。 画像:Public Domain via Wikimedia Common

 多額の借金とスキャンダル写真でナチス幹部の弱みを握り、安泰だと思ったのだろうか、ハヌッセンはナチスに近づきすぎる彼を心配するユダヤ系の友人に、

 

「私たちのような善良なユダヤ人がいることをヒトラーに納得させたいのだ」

 

 と余裕を見せていたという(とうてい“善良なユダヤ人”とは言えないが……)。ドラマ「笑うマトリョーシカ」の最終回では、これまで彼を支え、操ってきたハヌッセンたち(秘書、母親)をあっさりと切り捨てて、総理大臣に就任した主人公の清家(櫻井翔)が、新聞記者にこう語る。

 

「ヒトラーがハヌッセンを切ったとき、何を思っていたかわかりますか? 見くびるな、ですよ。おそらくね」

 

「見くびるな」──自分より弱者だと思っていた者が突如、牙をむく。何もかもお見通しだったはずの「第三帝国の予言者」ハヌッセン唯一の誤算は、「自分は誰であれ心を操れる」という傲慢さだったのかもしれない。

 

【参考資料】
Hanussen: Hitler's Jewish Clairvoyant Mel Gordon(2001)
HITLER‘S JEWISH PSYCHIC  Mel Gordon(The Magic Issue 2006)
Conjuring James Randi(1992)
Erik Jan Hanussen: Hitler’s Jewish Psychic Richard Spence (NEW DAWN SPECIAL ISSUE vol.8 2014)
The Mind of Adolf Hitler: The Secret Wartime Report Walter C.Langer(1972)