■映画『接続 ザ・コンタクト』の舞台、ピカデリー劇場前で
鍾路3街駅の3番出入口の脇道に入る。右角にあった赤い看板のエイの店はおしゃれなルーフトップバーに変わっていたが、それ以外大きな変化はない。行きつけのスンデクッ(腸詰汁)の『クンマム・ハルメ・スンデクッ』も、深夜映画を観た帰りに寄って茹で牛肉で一杯やった『ヨンジュノク』も、左手のマグロの刺身食べ放題専門店『皇帝チャムチ』も健在だった。
突き当りの右手にある1958年創業の映画館『CGVピカデリー1958』もそのままだったが、向かって手前右にあった3階建ての雑居ビルはカフェからジュエリーショップに変わっていた。
この辺りはハン・ソッキュとチョン・ドヨン主演映画『接続 ザ・コンタクト』のラストシーンが撮影された場所だ。昔ながらの劇場からシネコンに変わりはしたが、ここに立つと今でも脳裏にバイオリンとドラムの音とともにサラ・ヴォーンの「Lover’s Concerto」が鳴り始める。
ドラマではチョン・ウンジ&ソ・イングク主演の『応答せよ1997』にも登場している。最近だと、ユン・ヨジョン主演映画『バッカス・レディ』の冒頭に出てきた。
鍾路3街を歩いていて思ったのは、韓国に来れなかったあいだの仮想体験の力の強さだ。2020年後半から2022年末までは毎月のように東京や名古屋のカルチャーセンターのオンライン講座でソウルの最新情報を伝えていた。
そのため、毎週のようにソウルから送られてくる現地動画や写真を観ていたので、今回、目の前の風景すべてに既視感があった。これは不幸なことである。いつでも来れるではなく、もう二度とここに来れないかもしれないという気持ちで、好きな風景を、音を、匂いを全身で受け止めなければ。
(つづく)