■南大門市場で屋台の醍醐味を味わう
その広蔵市場の賑わいにはかなわないが、南大門(ナムデムン)市場の屋台村も面白い。
日本から来た仲間と3人でゆっくりマッコリを楽しんだときの話をしよう。
隣の席に楽しく食事をしていた家族4人がいた。50代の父母と20代の娘2人。勘定のときに母親が怒り出した。「2万5千ウォンはあまりにも高すぎる」と感情をむき出しにしていた。
そばで見ていて高いとは思わなかったが、母親は大変な剣幕だ。30代の男性が店の主人で、客を必死になだめていた。しかし、母親が「こんな程度の店で2万5千ウォンはありえない」と執拗に言ったので、主人もそのうち逆上して、激しい言い争いになった。その家族が憤慨しながら帰ったあと、主人が私たちの席にきて大いにぼやいた。
「娘2人をアメリカに留学させたと僕にさんざん自慢ばかりしていました。いかにもお金持ちのような素振りをしていて、たかが2万5千ウォンで文句を言いますか。娘の自慢話が聞いてあきれますよ」
主人は決してぼったりしていない、と何度も強調していた。
その言葉が終わらないうちに他の2人連れの男性客が1万5千ウォンの勘定と聞いて、急にぶつぶつ言い始めて、結局は1万ウォンだけ払って帰っていった。客が自分で勝手に5千ウォンをマケてしまったのだ。
その一部始終を見ていたら、主人がまた消沈しながらやってきた。
「見たでしょ、あんな客ばっかりですよ。こんな商売、やめたくなりますよ。ここはね、最初アボジがポンテギ(蚕のサナギ)を売って苦労して息子たちを育ててくれたんです。僕が引き継いで今は明け方の3時まで店を続けています。ホント、疲れますよ。でも、これで食っていかなければならないので」と涙声になった。
そんな彼を「いろいろな客がいるから」となぐさめた。
いよいよ、こちらの会計になった。彼はなんと言うだろうか、と興味深かった。
彼も一瞬頭の中で「飲み物とツマミ」の数を計算する素振りをした後で、絶妙な間合いで「5万ウォン!」と言った。私は3万ウォンがいいところかなと思っていただけに、自分の予想よりもかなり高かった。
せっかくグチを聞いてあげたのだが……。
とはいえ、悪い気はしなかった。むしろ、主人のしたたかさに感心した。こちらが何度も勘定でもめる他の客を見ていたはずなのに、それにも構わず、彼はもっともらしい演技力で取れるところからしっかり取ろうとしていた。ぶれない商売哲学が彼にはあるのだ。
そういう主人とのやりとりを楽しむのも屋台の醍醐味の一つ。やはり、韓国の屋台には人生のペーソスがある。