厳しい暑さのなか、日本人が冷やし中華やそうめんに手がのびるように、韓国の人たちも冷たい料理に食指が動く。
「韓国では冷麺ですね」
いつだったか、そんな話を聞いた。冷麺は1年中、食べることができる麺だが、夏の昼食に選ぶ人も多いという。なんの疑問もなくその話を受け入れ、夏の韓国ではよく冷麺を食べた。
しかし何年か前、チョゲククスという夏の麺を知ってからは、冷麺はほどんど注文することがなくなった。
冷麺──。韓国を代表する麺料理である。しかしこの料理が好きか……と訊かれると、ちょっと言葉に詰まる。
冷麺が苦手という人がいる。そば粉が入ったあの麺がゴムのようで……という人が多い。しかし僕は冷麺の麺に抵抗感はない。あえていえば、なにか物足りなさが残るといったらいいだろうか。
焼肉を食べた後、〆に冷麺……と得意げに語る韓国の人は多い。それは納得できる。脂っこい焼肉の後の冷麺は合う。しかし昼に単体で冷麺を頼むと……。何回か韓国に同行したカメラマンは、昼食に冷麺を食べるときは、必ず2杯注文した。
「量の問題もあるけど、1杯だとなにか物足りないんです」
その感覚がよくわかる。さっぱりとしたスープ。そこに酢で酸味を加える。弾力のある麺はつるっと胃に収まる。それで問題はないのだが。
なぜだろうか。いろいろ考えてみた。そこで辿り着いたのは牛肉だった。冷麺はスープや具の世界でいうと、牛肉系の麺料理だと思う。そして僕は牛肉という世界がどうもしっくりこない舌をもっている。ステーキはもう10年以上食べていない。東南アジアの牛肉は硬く、ときにアンモニア臭がする。そういう舌を抱えてしまっているから、冷麺から満足感が伝わってこないのだろうか。冷麺はもともと冬に食べる麺だという。それを夏に食べるから、しっくりこないのだろうか。
チョゲククスに出合ったとき、その推測は確信になった。次回は夏の麺、チョゲククスの世界を。