8月も後半だというのに日本には真夏が居座り続けている。ソウル在住の紀行作家チョン・ウンスク氏の話によれば、韓国では朝晩、秋の澄んだ空気を感じるようになったという。

 韓国の夏の終わりといえば、ある光景を思い出す。

■夏の終わり、モギョクタン帰りの女性の後ろ姿で思い出した一本の映画

 昼下がり、モギョクタン(沐浴湯/銭湯)帰りらしき女性が全身の力が抜けた様子でふらふらと市場や住宅街を歩いて帰る姿だ。これはソウルだけでなく、地方でも何度か見かけた。

 日本の人より韓国の人のほうが感情表現のメリハリがはっきりしているとよくいわれるが、「私は今まさにリラックスしています」といった感じの力の抜け具合が、なんとも微笑ましく、羨ましかった。都会人は自意識過剰なのだろうか。人前で脱力しきった姿を見せる人は、少なくとも東京ではあまり見られない気がする。

 そんなモギョクタン帰りの風情をみなさんと共有したいと思い、映画やドラマのワンシーンを思い出していたら、あった、あった。ホン・サンス監督の初期作品『カンウォンドのチカラ』だ。

『カンウォンドのチカラ』の前半、沐浴湯に向かう途中、映画雑誌『シネ21』を立ち読みするヒロインのジスク(オ・ユノン(C)MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD

 ヒロイン役のジスク(オ・ユノン)がモギョクタンで沐浴を楽しんでいる。カメラはセミロングの髪が湯にたゆたう姿を後ろから捉える。日本の女性は長い髪の毛を公衆浴場の湯に浸すことはあまりないと聞いた。ちょっとしたところに日韓の習慣の違いを感じる。

 湯上りのジスクが乗った体重計の針が42キロを指している。アパート団地に向かうゆるやかな坂を、けだるそうにのぼるジスク。暑いけれど、日本と比べるとやや乾いた韓国の夏の空気が伝わってくる。

 夏が行ってしまう前に、ソウルに行きたくなった。