洪麟漢の発言はあまりにも過激だった。なぜなら、洪麟漢が「東宮」と呼んだイ・サンも公式会議に出ていたからだ。洪麟漢は、イ・サンの前で「国王の後継者ではない」と言い切ったのも同然だった。

 この洪麟漢はイ・サンの母・恵嬪(ヘビン)ホン氏の父である洪鳳漢(ホン・ボンハン)の弟だ。いわば世孫の大叔父に当たる左議政がイ・サンを無能だときめつけたのである。彼は老論派の重鎮であり、イ・サンが即位したら老論派が排斥されると危機感を抱いていた。それゆえ、イ・サンの即位につながってしまう代理聴政をぜひとも阻もうとしたのだ。

 ちなみに、洪麟漢は『赤い袖先』の中ではホン・ジョンヨという名前になっており、イ・サンの即位を邪魔する急先鋒として描かれている。

 イ・サンは23歳になっていた。十分に大人の年齢であり、天才的な政治能力を持っていることは周知の事実だった。それだけに、「政治のことを知らなくてもいい」と断言した洪麟漢の言葉には説得力がなかった。

 後日、英祖は再び公式会議を開いてこう語った。

「最近の言動を見ていると重臣たちを信じることができない。余はすべてのことを世孫だけに伝えたい」

 このように英祖はイ・サンを徹底的に擁護した。それでも老論派の重臣たちから反対の声が挙がったが、英祖が押し切ってイ・サンの代理聴政が正式に決定した。

 これは英祖の最後の大英断であった。その数カ月後に彼は長い人生を終えることになったが、その直前にイ・サンの即位を盤石なものに築いたのであった。

●作品情報

『赤い袖先』

[2021年/全17話]※TV放送は全27話 

演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ

出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フン、イ・ドクファ

DVD&Blu-ray販売元 ‏: ‎NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン