■山の裾野の人情食堂、夫婦二人三脚で打つ絶品の手打ちククス

 君子村を訪ねる前に、黄土房(ファンドバン)ムッチッという食堂に立ち寄った。安東駅からタクシーで13分という距離にも拘わらず、山の裾野にポツンと建つ一軒家。50年に亘り夫婦で切り盛りしているという。

山裾に建つ黄土壁の食堂は手作りククスが美味しいと評判だ

 名物の手作りククス()が地元の人に評判だとネット情報で知ったのだが、一人旅の私にとって問題は2人前からの注文であること。

 1人で来たことを告げた瞬間に「1人じゃダメ」と女将から強く拒否された。「2人前注文します。ククスが食べたくて日本から来ました」と伝えたが、女将からは何の反応もない。

 気後れしつつも「ククスを食べずに帰るわけにはいかない!」と思い、席に座っていたところ、主人がテーブルにパンチャン(おかず)を並べてくれた。薄く小麦粉の衣をまとわせた白菜のジョン(チヂミ)がやたらと美味しい。

テーブルに並べられたパンチャンの中でも薄衣の白菜のジョンが最高に美味しかった

 主人が麺を伸ばし、その後女将が包丁で麺を細く切り始めた。「どうやってこんな田舎も店がわかったの」と女将が不思議そうに私に問いかける。初めて店を訪れた日本人だったそうだ。イリコ出汁の効いた優しい味の細麺のククスの味が心に染みた。

 最後に主人と女将と3人で写真を撮る際に、女将がすっと私の背中に腕を回してくれた。優しい手打ち麺のように、頑なだった女将の心がほろりとほぐれた素敵な瞬間だった。

主人が生地を伸ばし女将が細くカットするという夫婦二人三脚で作られる手作りククス

●安東へのアクセス

ソウル清凉里駅から安東駅までKTX中央線で約2時間5分