イ・ドンウクとキム・ヘジュン主演の『殺し屋たちの店』(ディズニープラス スターにて全話独占配信中)は、物語だけでなく、撮影場所や小道具などのディテールにも工夫があり、興味深く観ることができた。(以下、一部ネタバレを含みます)
■ソウル・世運商街の東側、町工場(まちこうば)の地下こそ「殺し屋たちの店」だった!
『殺し屋たちの店』7話の序盤には、私がよく歩くソウルの零細工場街が出てきてハッとした。周辺の建物からこの辺りがソウルの世運商街ビル群の東側ブロックであることがわかる。
入口に「ブラザー金属」と書かれたその工場には作業服姿の男ホンダ(パク・ジョンウ)がいたが、彼が隠し扉から地下室に向かうのを見て事態が飲み込めた。そこではミンヘ(クム・ヘナ)が何かの作業をしていた。壁には多数のライフルが展示されている。そこは武器の闇取引の場、オンライン化される前の「殺し屋たちの店」だったのだ。
「ああ、またか……」
ため息が出たのは、世運商街とその周辺の町工場がブラックに描かれるのが、『殺し屋たちの店』が初めてではなかったからだ。
■世運商街と町工場がブラックに描かれた作品
ソウル旧市街のど真ん中には低層階の町工場がたくさん残っている。
世運商街(宗廟前から忠武路駅前まで北から南に連なる世運商街ビル・清渓商街ビル・大林商街ビル・三豊商街ビル・ホテルPJ・新星商街ビル・進陽商街ビルの総称)の脇の空中歩行路から夜、東方向を見下ろすと、そこだけネオンが灯っていないブロックがある。そこが町工場の密集地だ。
韓流ファンには、ドラマ『ヴィンチェンツォ』のクムガプラザ(清渓商街)の東側と言ったほうがピンとくるだろう。
『ヴィンチェンツォ』のクムガプラザは、マフィアの元顧問弁護士ヴィンチェンツォ・カサノ(ソン・ジュンギ)と悪徳企業が激しく争う場だった。また、『シスターズ』で主人公オ・インジュ(キム・ゴウン)の宿敵パク・ジェサン(オム・ギジュン)が自ら命を絶ったのは世運商街の屋上だった。
世運商街は血生臭いノワール映画にもよく登場する。チョン・ウソンが善玉を演じた『神の一手』、同じチョン・ウソンが悪玉を演じた『監視者たち』がその例だ。
そして、世運商街周辺の町工場をブラックに描いた映画としては、『嘆きのピエタ』と『レッド・ファミリー』が挙げられる。前者は、借金取り立て屋(イ・ジョンジン)の残忍さと工場の薄暗さが相まって絶望的な場所にしか見えなかった。後者は、仲のよい家族を偽装した北朝鮮スパイ4名(キム・ユミ、チョンウ、ソン・ビョンホ、パク・ソヨン)が潜伏していたのが、この辺りの町工場だった。