Netflix配信中のドラマ『殺人者のパラドックス』(全8話)は、どういうわけか捜査線上から遠のいていく殺人犯イ・タン(チェ・ウシク)と、それを追う刑事チャン・ナンガム(ソン・ソック)の物語だ。

 ナンガムの先輩刑事役を『ドクタースランプ』ヒロインの叔父役、ヒョン・ボンシクが演じている。『ナルコの神』『クイーンメーカー』『この恋は不可抗力』など、この人もすっかり売れっ子だ。

■コンビニ前の酒宴

『殺人者のパラドックス』は、人物や街の描写がリアルで、映像にグッと惹きつけられた。配信サービスが一般化した今、映画とドラマの境界線はにじみつつあるが、本作の映像表現はとても映画的だ。

 物語の本筋とは別に、序盤で着目したシーンを挙げてみよう。

 第1話で印象に残ったのは、コンビニでバイト中のイ・タンに、店先の簡易テーブル席に干しイカのバター焼きとCASS(ビール)を持ってこさせようとした工事現場の所長だ。いやなことでもあったのかやたらと悪態をつくので、一緒にいた仲間にたしなめられている。

 コンビニやシュポ(個人経営の小さなスーパー)で酒を買った人が店先のテーブルや縁台で呑む光景は、韓国では一般的だ。なにしろ一番安い外飲みだから、夏などは居酒屋さながらの賑わいである。不景気が慢性化していることも無縁ではない。

 最近は男性だけではなく女性の姿も見られる。劇中の所長のように大声で何事かまくしたてる酔客はソウルなどの都会ではあまり見ないが、地方に行くとたまに見かける。

 7年ほど前に「ホンスル(一人酒)」という言葉も生まれ、一人で飲むことに対する偏見も少なくなったとはいえ、コンビニの店先での一人酒にはやはりさびしさがつきまとう。

 テーブルに残されたビールの空き瓶や食べ散らかされた干しイカを見て、タンはため息をつくが、そのイカをかじりながら虚ろな目で店番を続ける。

 チェ・ウシクにはこんな冴えない大学生がハマリ役だ。『パラサイト 半地下の家族』の浪人生役の延長線上の演技ともいえる。

ソウルのコンビニの前でビールやソジュを飲む人たち
釜山のコンビニの前で一人マッコリを飲む男性。この人はリラックスして楽しんでいた