■大ヒット映画『エクストリーム・ジョブ』で劇場を沸かせた日本語

 主要スタッフ全員が声を揃えてひと言日本語を発しただけで、劇場を沸かせたのが、2019年に公開されて動員1,600万人超を記録した映画『エクストリーム・ジョブ』だ。

 犯罪組織を監視するためフライドチキンの店を偽装した刑事たちだが、その店がまさかの大繁盛。ついには日本から団体客までやってきた。そのとき、リュ・スンリョン扮する主人公はじめ、店のスタッフから出た言葉はもちろん、「いらっしゃいませ!」だった。

 同年公開の映画『マルモイ ことばあつめ』には、植民地時代の日本人に扮した韓国人俳優が多く出演したが、出色だったのが『イカゲーム』や『エージェントなお仕事』のホ・ソンテだ。韓国人が日本語を話すときに出がちなクセをほとんど感じさせなかった。ホ・ソンテはロシア語が堪能だそうだ。

『エクストリーム・ジョブ』が公開されていたときのソウル忠武路、大韓劇場の壁面

■日本の俳優が韓国で活躍する時代へ

 2023年に話題になったNetflix『マスクガール』には、アカウント名 “前世はウォンビン”(アン・ジェホン)が、リアルドールに日本語で話しかけるシーンがあった。これは重度のオタク感を出すために日本語が使われている例なので、上手い下手は問題ではない。

 また、『パラサイト 半地下の家族』や『殺人者のパラドックス』のチェ・ウシクが、『サム、マイウェイ〜恋の一発逆転!〜』で話した日本語は違和感が少なかった。聞けば移民先のカナダで日本語を勉強したことがあるそうだ。

 イ・ビョンホン主演『ミスター・サンシャイン』やパク・ソジュン主演『京城クリーチャー』は、その時代背景からたびたび日本語が聞こえてくるが、韓国人が演じる日本人のセリフにはどうしても違和感があり、物語にやや没頭しにくかった。

 20年以上前に韓国でデビューし、最近は『韓国ドラマな恋がしたい』に出演した女優の笛木優子や、『密偵』『保安官』『金子文子と朴烈』『大将キム・チャンス』ほか韓国映画にコンスタントに出演している武田裕光など、最近は韓国で活躍する日本人俳優も増えているので、ぜひ期待したい。

 韓国の映画やドラマに日本語が出てくる例は珍しくないが、その逆となると、テーマ自体が韓国がらみでない限り、多いとはいえない。しかし、1本だけ印象に残っている作品がある。山下敦弘監督の映画『リンダ リンダ リンダ』だ。

 韓国語を話したのはなんと当時二十歳の松山ケンイチ。放課後、誰もいない高校の教室で、松山ケンイチ扮する高校生が韓国から来た留学生(ペ・ドゥナ)に愛の告白をする。たどたどしい韓国語で懸命に話しているのに、留学生が冷静に日本語で返す様子が愉快だった。筆者はソウルの明洞でこの映画を観たのだが、この場面ではクスクス笑う声が劇場のあちこちから聞こえて来た。

 冬ソナの大ヒットから早や20年。韓流熱風は吹き止まないので、これからは日本の俳優が韓国語を話す機会がさらに増えるかもしれない。