多くのドラマや映画が次々に公開され、新たなスターを生んでいる韓国エンタメ界。そんな「栄枯盛衰」「盛者必衰」の世界で長く活躍している俳優を見ると本当に頭が下がる。

 Netflix配信『良くも、悪くも、だって母親』で、本人の故郷(江原道旌善古汗邑)さながらの田舎町(撮影は慶尚北道・軍威郡)を舞台に、これぞチマパラム(教育ママ)と言うべきオンマを演じているラ・ミラン(1975年生まれ)もそんな女優の一人だ。

■『良くも、悪くも、だって母親』イ・ドヒョンの母役を熱演した女優ラ・ミランの魅力とは?

 今年5月に授賞式が行われた韓国エンタメ界の最大アワード、第60回「百想芸術大賞」で、『良くも、悪くも、だって母親』はTV部門の作品賞や脚本賞にノミネート、ラ・ミランは女性最優秀演技賞にノミネートされた。ちなみに、ラ・ミランは今年、同賞の映画部門でも主演作『市民ドクヒ(原題)』で女性最優秀演技賞にノミネートされている。

 近作では、日本でも2023年に公開されたチョン・イル主演の映画『高速道路家族』の演技が印象的だった。ラ・ミランは高速道路のサービスエリアを転々としながら詐欺まがいの暮らしをしている家族を自宅に住まわせる役で、コミカルな演技やオーバーアクションはないものの、自身の癒えない心の傷と向き合ったり、ホームレス家族の妻や子供たちに心を痛めたりする静かな表情演技が観る者の心にしみた。

高速道路のサービスエリアは韓国では休憩所(ヒュゲソ)と呼ばれる
高速道路の休憩所にはたいていフードコートがある。フードコートで筆者が食べた大根と卵のスープ

 2019年には『ガール・コップス』で初の主役を演じた。捜査チームから外され、同じ境遇の義妹(イ・ソンギョン)と二人で地を這うように密かに捜査を進める話で、ラストで凶悪犯をプロレス技で仕留めるシーンは胸がスーッとした。

 それはまさに2005年の映画デビュー以来、汚れ役、チョイ役などで経験を重ね、40代半ばにしてようやく主役の座を射止めた彼女のハンプリ(恨からの解放)の瞬間だった。