Netflix人気ドラマ『Missナイト&Missデイ』は、20代と50代を夜と昼で行ったり来たりすることになってしまった女性、ミジン(チョン・ウンジ/Apink、イ・ジョンウン)の物語だ。ファンタジー的な設定、年齢を超えて交錯する男女関係、地方の人情話、クライム・サスペンスなどに加えて、コメディの要素も加わったビビンパのようなドラマなのだが、登場人物が食べたり飲んだりするものなど細部の描写が丁寧でハートがあるので、心地よく視聴することができる。
今回は回を重ねるごとに人間味を取り戻していった、ケ・ジウン検事(チェ・ジニョク)の13話のセリフにフォーカスしてみよう。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『Missナイト & Missデイ』ジウン検事のセリフに隠された、韓国のグルメブームに対するメッセージとは?
本作13話、残業で夕ごはんを食べに事務所を出たケ・ジウン検事とチュ・ビョンドク捜査官(ユン・ビョンヒ)が、韓式食堂らしき店で向かい合って座っている。何の店なのかはよくわからないが、店の壁には「トガニタン」(膝蓋骨とその周辺の軟骨や肉を煮込んだスープ)と書かれた短冊が貼られている。となると、ソルロンタン(牛肉や牛骨、内臓を煮込んだスープ)の店の可能性が高い。
クッパ(汁物とごはん)みたいなものは嫌いだったでしょと言うビョンドク捜査官に対し、ジウンが答える。
「食事っていうのは、味よりも、誰とどんなふうに食べてどんな思い出になったかが重要なんじゃないですか」
そう言いながら、トガニタンの具の軟骨をスプーンですくうジウン。寝食を忘れて仕事に没頭するばかりだった彼なのに、変われば変わるものである。
「じゅあ、トガニタンに何かいい思い出でも?」
ビョンドクがさらに聞くが、ジウンはニヤつくだけで答えない。
ビョンドクの読みが当たっていたことは、ジウンのミジンとのムンチャ(カカオトークなどのSNSメッセージ)のやりとりからも明らかだ。11話を観ればわかるように、ウジンにとってトガニタンは、まさにミジンとの思い出の料理になっていたのだ。
ジウンの、「味よりも、誰とどんなふうに食べたかが重要」という言葉には、今の韓国の頭でっかちなグルメブームに対するアイロニー、慧眼を感じずにはいられない。
料理発祥の物語、味の表現、素材、調理法などにこだわるあまり、食べることの幸せの本質を見誤っているのでは? そんな問いかけのようにも思えるのだ。