「ま、待ってください。混ぜちゃうんですか?」
知人は平然とした面もちでこういった。
「このコチュジャンは酢が入っているんです」
そういうことではなかった。混ぜること、それもがしがしと混ぜ合わせる動作に違和感を覚えた。人は海鮮サラダをどうたべるのだろうか。ドレッシングをかけ、若干は混ぜ合わせるかもしれないが、「合える」程度ではないか。目の前の韓国人は、まるで納豆のように混ぜ合わせている。
僕はこの混ぜる料理があまり得意ではない。日本人には好きな人が多い卵ご飯も苦手だ。できれば別々に食べたい。
しかし知人は相変わらずがしがしと混ぜ合わせている。マグロの味が薄れていくような気になる。せっかくのマグロに申し訳ないではないか。
知人はときどき、テーブルに置かれたゴマ油も加え、さらにかきまわすように混ぜる。野菜をつまんで味見。少し足りないということなのか、酢入りのコチュジャンを加えて、再びがしがしと混ぜる。
この時間が長い。もうそのくらいでいいじゃない……と僕は思うのだが、彼は納得できないのか、延々と混ぜ合わせている。
5分以上は混ぜていた気がする。
「まあ、こういう海鮮サラダが好きな人もいるだろう」
僕は100歩ぐらい譲って、どこにマグロがあるのかわかりずらくなった丼を眺めた。
ところがその後、とんでもないことが起きてしまう。(つづく)