ソウル刺身丼を食べないか……と誘われた。刺身丼? 食べたことがあるだろうか。

 そういえばソウル駅にあるフードコートで子連れの家族が食べているのを見た気がした。

 以前、ソウル駅のフードコートでしばしば食事をした。泊まっている宿が近かったこともあるが、注文用に大きなパネルがあり、そこに英語表示があったからだ。韓国料理初心者にはありがたい存在だった。

■ソウルで刺身丼、どんな料理が出てくるのか?韓国人の食べ方は?

 隣のテーブルに両親とまだ幼い子供が座った。フードコートはセルフサービスだから、父親がブースから料理を運んできた。母親の前に置かれた料理にはマグロが載っていた。母親はそれを何回か混ぜて、スプーンにとって子供にあげていた。

「混ぜちゃうんだ」

 とそのときは思ったが、日本でいうちらし丼のようにして食べているのだと想像した。幼い子供はまだ、刺身が苦手なのかもしれない。当然、わさびも口にできないだろう。刺身とご飯を混ぜて、食べやすくしているのだと思った。

ソウル駅の2階にあるフードコート。韓国料理の勉強の場?

 韓国人の誘いを気楽に受けた。入ったのは江南駅に近いマグロ料理の店だった。広い店だったが、昼どき、テーブルはかなり埋まっていた。僕らの隣には、へジャブを身に着けたイスラム教徒の女性がふたり、マグロの刺身定食らしきものを食べていた。中東からの観光客だろうか。器用に箸を使い、マグロを醤油につけて食べている。僕らが頼む刺身丼も似たような料理のように思った。

 刺身丼は「フェトッパ」といった。「フェ」は「刺身」、「トッパ」は「丼」を意味していた。

 出てきた刺身丼を前に、僕は少し戸惑った。キャベツなどの野菜の千切りの上にマグロ、海苔、細く切った卵焼きなどが載っている。その脇にはご飯が入った丼、そしてみそ汁……。

 問題はマグロの載った丼だった。野菜の上にマグロの刺身……。マグロは日本のような薄切りではなくブロック状。見ようによっては海鮮サラダのようにも映ったのだ。

 刺身丼とは海鮮サラダ丼? 

 マグロにわさびを載せ、醤油につけて、ご飯と一緒に食べる……そんな料理を想像していた僕は、刺身丼の前で固まってしまった。これはどうやって食べるのだろう。

 すると前に座った知人は、コチュジャンの入った赤いボトルを手にとると、野菜の上に載ったマグロの刺身の上にどぼどぼとかけはじめた。

「こういうとき、韓国人はコチュジャンをドレッシング代わりに使うんだ」

 僕は妙に納得した。

 ところが知人がやおら金属製の箸をとり、野菜、海苔、卵焼き、そしてマグロを豪快に混ぜはじめてしまったのだ。