日本でヒットし、3月19日から韓国でも封切りになる『劇映画 孤独のグルメ』。その時期に、韓国を訪れる予定のある人は、ソウルや釜山の劇場で観覧するのもいいだろう。韓国人のリアクションは日本人より大きいので、作品だけでなく韓国人ならではの反応も楽しめるはずだ。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『劇映画 孤独のグルメ』でわかる、韓国人の食に対する考え方
『劇映画 孤独のグルメ』で筆者がハッとしたのは、韓国で撮影されたシーンだ。
主人公の井之頭五郎(松重豊)が港の食堂で食事をしているところに、韓国の公務員(ユ・ジェミョン)がやってきて、五郎を連れて行こうとする。五郎は逆らったりしないが、この食事が終わるまで待ってほしいと懇願する。公務員は強制的に連行できる立場なのに、なんと待ってやる。
これはじつに韓国らしい対応である。日本人は寝食を忘れて働くことを美徳とするが、韓国人は多少忙しくても食事をおろそかにしない。筆者は1990年代末から韓国人と日本人がいっしょに仕事する場に居合わせたり、当事者だったりしてきたが、この感覚の違いから起きるトラブルに何度も遭遇している。
「仕事が切羽詰まっているのにメシなんか食ってる場合か?」は韓国では通用しないのだ。
■『タンポポ』に共通する食への愛
『劇映画 孤独のグルメ』は、伊丹十三監督のグルメ映画『タンポポ』(1985年)の影響を受けていて、オマージュらしき場面が散見される。五郎が訪問したパリに住んでいる女性に扮した杏は、『タンポポ』で山崎努が扮したタンクローリー運転手の助手役である渡辺謙の娘だし、オダギリジョーが店主に扮したラーメン屋のロゴは、ずばりタンポポだった。そして、その店に五郎をはじめとする男たちが集まってラーメンを試食する場面は、『タンポポ』のハイライトシーンそのものだった。
前述の五郎が港の食堂で公務員を待たせて食事をするシーン。『タンポポ』で該当するのは、サブストーリーで刑事(田武謙三)が高級中華料理店で北京ダックを美味しそうに食べているスリ(中村伸郎)を逮捕する場面だ。
手錠をかけられたにもかかわらず、お願いだから最後にもうひとつだけ食べさせてほしいと言うスリに対し、刑事は舌打ちしながらも「早くしろよ」と許してやる。小津安二郎作品などでクールな役を多く演じた中村伸郎だけに、両手で北京ダックをつかみ、身悶えするように食べる姿は今観ても笑ってしまう。