韓国最大のエンタメアワード「百想芸術大賞 2025」でドラマ作品賞ほか8部門にノミネートされるなど、高い評価を得ているNetflix超話題作『おつかれさま』。
ドラマを見ていると、「陸地(ユクチ)」という言葉がかなり多く使われていた。これは、物語の舞台である済州島(チェジュド)の人々が、韓国本土を指すときに使う単語なのである。
島と陸地……済州島の人々は自分たちが島に住んでいることを強烈に意識しているが、韓国最大のこの島は独自の風土と歴史を持っていた。今回は、その歴史について解説していこう。
■Netflix『おつかれさま』の舞台、済州島の歴史解説
済州島はもともと「耽羅(タムナ)」と呼ばれる独立国だった。
興味深いのが耽羅の建国神話である。それは次のような話だ。
「その昔、島の北部にある穴から三神人が出てきた。全員が男で歳の順に言うと、良乙那(ヤンウルナ)、高乙那(コウルナ)、夫乙那(プウルナ)であった。
あるとき、木箱が島の東側の海岸に流れついた。木箱を開けてみると、三人の乙女が現れてきた。子馬や五穀の種も入っている。乙女に付き添っていた従者が言った。
『私たちの国の王様には三人の王女がいらっしゃる。国王は西の島で三人の神が誕生して国が作られることをお聞きになり、お祝いに三人の王女を遣わされました。ぜひ娶ってくださり、国を栄えさせてください』。
そう語ると、従者は雲に乗って東の国へ帰って行った。三神人は年齢順に乙女を娶り、子馬を放牧し、五穀の種を土に播いた。そのおかげで国は大いに栄えた。この三神人が済州島民の祖先である」
この神話に出てくる「乙那(ウルナ)」は「長」を意味する尊称だ。
また、耽羅国の有史以来の有力な氏族は「高(コ)」「良(ヤン)」「夫(プ)」であり、この三氏族が神話にも登場してくる。なお、「良」は後に「梁」という漢字を当てられるようになった。そして、三氏族の中で「高」が最大勢力を誇って国王を名乗っていった。
耽羅国は、日本にもよく知られていた。遣隋使や遣唐使が大陸に向かうときの海路が済州島の近海を通るものだったからだ。特に、嵐に巻き込まれた遣唐使の一行は何度も済州島に漂着している。
たとえば、661年に遣唐使の一行が済州島に漂着しており、耽羅国は彼らを日本に送還するときに王子の阿波伎(あわき)を同行させている。そのことは『日本書紀』にも記述されている。
さらに、669年にも耽羅国王子の久麻岐(くまぎ)が日本に渡り朝廷から五穀の種を賜ったことが『日本書紀』に記されている。7世紀後半には日本と耽羅が親密な関係を築いていたのである。
