人気バラード歌手ソン・シギョンと『孤独のグルメ』の松重豊が、韓国と日本で食べ歩きするNetflix隣の国のグルメイト』。シーズン2第5話で、ソン・シギョンが松重豊を案内した韓国式中華料理店はソウル旧市街(漢江の北)、鐘路3街(チョンノサムガ)というエリアの北端にあった。

 鐘路3街は、ふつうのガイドブックにかならず出ている仁寺洞(インサドン)の東隣にあるエリアだが、十年くらい前まで日本の旅行者には地下鉄1号線、3号線、5号線の乗換駅くらいにしか認識されていなかったと思う。(記事全2回のうち前編)

■鐘路3街の屋台街は毎日が “プルグム”(燃える花金)!

 今、鍾路3街駅の3~6番出入口から夕方、地上に出ると、通りの両側にボジャンマチャ(屋台)が連なっていて、台湾の夜市に勝る賑わいにびっくりするだろう。

 屋台群は筆者がこの街に注目し始めた2010年には既にあったが、そこで飲んでいたのは、シニアの憩いの場であるタプコル公園から流れてきた中高年男性と、男性を恋愛対象とする男性グループばかりだった。

 タプコル公園はドラマや映画の撮影にもよく使われている。『イカゲーム』シーズン2の1話ではコン・ユが大立ち回りを演じるシーンがあった。日本公開が決まっている注目映画『ソジュ戦争(原題)』では、主演のイ・ジェフンユ・ヘジンがこの辺りで飲み歩くシーンがある。映画『バッカスレディ』では、娼婦役のユン・ヨジョンが客引きするシーンが撮られている。

タプコル公園(左手)裏で路上飲みする客層も中高年男性からカップルや女子グループに変わった
タプコル公園の東側にある雑居ビルは、かつては男性同士の出会いの場だった

益善洞のブレイクで鐘路3街が変わった

 屋台の客層が変わり始めたのは、2015年前後、屋台通り北側の益善洞(イクソンドン)という日本植民地時代の分譲住宅街が、伝統家屋を改装したバーに生まれ変わった頃。「植物」や「コブギシュポ」はそのはしりの店だ。それ以前からあった店は、斎藤工とキム・ジョンフンが共演した日韓合作映画『カフェ・ソウル』の舞台となった伝統喫茶「トゥラン」くらいしか思い出せない。

カフェやレストランバーがほとんどなかった頃の益善洞(2014年)