■韓国人のラーメン情緒がわかる作品
ラーメン情緒で思い出す映画がふたつある。ひとつは、『春の日は過ぎゆく』だ。いっしょに過ごした日の夜、帰ろうとする男子(ユ・ジテ)を「(ウチで)ラーメン食べて行かない?」と女子(イ・ヨンエ)が引き止めるシーンが話題となった作品である。
劇中、男子を自宅に招くことに成功した女子は実際にラーメンを作っていた。これが日本なら、深い関係になるかもしれない男女にラーメンはふさわしいとは言えない。「(ウチで)コーヒー飲んでいかない?」、あるいはそれまで酒を飲んでいたのなら、「(ウチで)飲み直さない?」がせいぜいだろう。
チョン・ウンジ(Apink)とイ・ジョンウン主演のNetflixドラマ『Missナイト & Missデイ』15話には、ビョンドク捜査官(ユン・ビョンヒ)に対する疑念が晴れたガヨン(キム・アヨン)がビョンドクに、「その話、ウチで詳しく聞かせてください。ラーメンでも食べながら」と言うシーンがあった。これは、『春の日は過ぎゆく』へのオマージュである。
もうひとつの映画は『昼間から呑む』。主人公(ソン・サムドン)に江原道を一人旅させることになってしまった友人(ユク・サンヨプ)は、自分が合流するまでそこにいさせるため、電話で「江陵(カンヌン)の鏡浦(キョンポ)ビーチでソジュ飲みながらカップラーメン食ってみろ! 幻想的だぞ!」と言うシーンがある。
ラーメンと幻想。幻想という言葉には韓国語と日本語で温度差があり、韓国語では「すごくいい」「最高」くらいのニュアンスとはいえ、日本の人なら海辺でひとりカップラーメンを肴にソジュを飲めと言われたら、怒る人が少なくないだろう。
韓国は文化的に長らく日本の影響を受けてきた。韓流ブーム以降は相互に影響し合うようになり、あと20年もしたら大衆文化はかなり均質化してしまうかもしれない。しかし、日本と韓国は違うからこそおもしろい。


●配信情報
Netflix『隣の国のグルメイト』独占配信中(毎週木曜日配信)
[2025年/全30話]出演:松重豊、ソン・シギョン