ハン・ソッキュって誰? ああ、『浪漫ドクター キム・サブ』のおじさんか」

 そんな言葉を韓流ファンの方から聞くと少しがっかりする。ハン・ソッキュをあまたのベテラン俳優の一人くらいにしか見ていないように感じるからだ。だが、そんな方たちも話題のドラマ『シン社長プロジェクト』第1話冒頭10分間の演技を見れば、彼のすごさがわかるだろう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■陰を背負った人物を演じさせたら天下一品のハン・ソッキュ、『シン社長プロジェクト』一世一代の名演技

『シン社長プロジェクト』第1話は、タルトンネ(傾斜地にある庶民の住宅街)らしき街並みにある多世帯住宅(2世帯以上が住む4階以下の共同住宅)から、ハン・ソッキュ扮するチキン店のシン社長がボサボサ頭で出てくるところから始まる。

『シン社長プロジェクト』の劇中でシン社長が切り盛りするチキン屋は、広場型市場にある。写真はソウル弘済洞の仁王市場

 坂道の壁には「小便禁止」の文字。シンの足には流行から2周くらい遅れた感じのクロックス。これだけでシンがどんな人物かが伝わってくる。ハン・ソッキュは来月61歳になるのだが、40代後半くらいにしか見えない。劇中、新米判事フィリップ(ペ・ヒョンソン)を自分に押し付けた部長判事に扮したキム・サンホは実年齢が6歳も下で、劇中、ハン・ソッキュは彼の後輩役なのだが、まったく違和感がない。

 シンが買い物をして帰る途中、多世帯住宅のビルの屋上でガソリンをかぶって騒いでいる男(イ・ジュンオク)を見かける。半地下に住んでいるらしい。ビルの下には野次馬たちが集まっている。警官や機動隊もやってきた。

 シンは冷静に状況を見ながら屋上に上がり、世間話でもするように男に話しかける。手に持っている火器を強引に奪い取るようなことはせず、死ぬのはそう簡単じゃないと静かに諭す。これで喉を潤してくれとチョコ牛乳を渡す。

 ビルの下にいる大家の「死ぬなら農薬でも飲みやがれ!」という心無い言葉に男は再び怒りを露わにするが、シンは男の気持ちに寄り添うように大家に激しく言い返し、ガソリンの入ったポリタンクを地上に投げ落とす。これで大火事を未然に防ぐことができる。

「あんな人間にかまうことない。オレはあんたの味方だ」の言葉に男は再び落ち着きを取り戻す。そこに機動隊が突入。男は連行されながらシンに言う。

「チョコ牛乳、ありがたかったです」

韓国の庶民生活圏でよく見かける多世帯住宅(右手のレンガ造りの建物)